近未来のメディアでは、「編集部」が姿を消すかもしれない

広がりゆくジャーナリストの守備範囲

メディアの立ち上げや運営に、「プロダクト」思考が必須になると述べたが、そもそも、「編集者」「記者」の仕事そのものも大きく変化していく。

あえて大胆な仮説をぶち上げたのは、テクノロジーに関するシンクタンク「フューチャー・トゥデイ」を主宰するエイミー・ウェブ氏だ。同氏が当日用いた膨大なスライドは、 ここで見ることができる。

同氏の講演内容は、スライドが200ページ近く、多岐にわたるが、ここではその中でも刺激的なスライドを1枚だけ紹介しよう。筆者なりに粗っぽく意訳すれば、「近未来のジャーナリストの仕事」と要約できるものだ。

エイミー・ウェブ氏「近未来のジャーナリストの仕事」

具体的な仕事内容については以下になる。

[古びていく業務]

  • 記者
  • ソーシャルメディア担当マネージャ
  • Webメディア・プロデューサー
  • 「マルチメディア」デザイナー
  • グラフィック・デザイナー
  • 文章校正・校閲担当者
  • デスク

[新たに生まれる業務]

  • データおよびアルゴリズムを活用した調査担当(チーム)
  • 仮想現実(コンテンツ)プロデューサー
  • メディア実験工房(ラボ)の主任研究員
  • プラットフォーム・マネージャ
  • 各種公共データ(API等)活用編集者
  • データサイエンティスト(のリーダー)
  • データサービス系コンテンツのUXデザイナー

これまでのジャーナリストの仕事の常識からすると、ひと目見ただけでは意味の「わからない」種類の仕事が加わっていると見えるかもしれない。ポイントは、テクノロジーの進化とデータの活用だ。

これまでのように、印刷メディア、Webメディア、そしてモバイルアプリメディアといった連続的な進化に追随しているだけでは、事象が多様になろうとしている時代の息吹をうまく伝えていくことはできそうにない。

データを分析し、それをどう表現するのか。そして、その表現をどのようなフォーマットとプラットフォームを選択し、適切な場へと配信していくのか。前の項目で述べたことに呼応するように、テキスト、音声、映像、数表、仮想現実など、ユーザー体験の最適化を引き出さねばならない。

「古びていく業務」と、粗っぽく既存の職能を整理してしまったが、むろん、ウェブ氏も従来からの基本的なジャーナリストの能力が不要になるとは言っていない。ジャーナリストにとって“物語る”力が最も重要であることは、今後も変わらない。

だが、その手法は、データから仮想的な現実の表現にまでと広がっており、ジャーナリストはこれを駆使する職能になり、テクノロジーへの親和性が強く求められる時代にさしかかっている。この状況に柔軟に対応することが求められるはずだ。

次ページ 「「編集部」が姿を消す」へ続く

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藤村 厚夫(スマートニュース)
藤村 厚夫(スマートニュース)

90年代を、アスキー(当時)で書籍および雑誌編集者、および日本アイ・ビー・エムでコラボレーションソフトウェアのマーケティング責任者として過ごす。

2000年に技術者向けオンラインメディア「@IT」を立ち上げるべく、アットマーク・アイティを創業。2005年に合併を通じてアイティメディアの代表取締役会長として、2000年代をデジタルメディアの経営者として過ごす。

2011年に同社退任以後は、モバイルテクノロジーを軸とするデジタルメディア基盤技術と新たなメディアビジネスのあり方を模索中。2013年より現職にて「SmartNews(スマートニュース)」のメディア事業開発を担当。

藤村 厚夫(スマートニュース)

90年代を、アスキー(当時)で書籍および雑誌編集者、および日本アイ・ビー・エムでコラボレーションソフトウェアのマーケティング責任者として過ごす。

2000年に技術者向けオンラインメディア「@IT」を立ち上げるべく、アットマーク・アイティを創業。2005年に合併を通じてアイティメディアの代表取締役会長として、2000年代をデジタルメディアの経営者として過ごす。

2011年に同社退任以後は、モバイルテクノロジーを軸とするデジタルメディア基盤技術と新たなメディアビジネスのあり方を模索中。2013年より現職にて「SmartNews(スマートニュース)」のメディア事業開発を担当。

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