「流行っている言葉を使うのがコピーライティングで一番危険」谷山雅計さんインタビュー

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【前回のコラム】「広告は「面白い」がいいのか「売れる」がいいのか、ラジオCMから考える」はこちら

画像提供:shutterstock

ザ・フライの今野です。このコラムはお笑い芸人である僕が、宣伝会議の「コピーライター養成講座」を受講して、そのレポートを書くという内容です。

今回は特別編としてコピーライターの谷山雅計さんにインタビューした模様をお届けします。谷山さんと言えば「ガス・パッ・チョ」「YONDA?」「TSUBAKI」「マルちゃん正麺」や「消えたかに道楽」シリーズなど、超有名な広告を数多く生み出してきたコピーライターです。

この連載でも、谷山さんが担当された講座をレポートしました。

コピーライター谷山雅計さんの講義で学んだ「ダメなコピー」

こちらをご一読いただくと、今回のインタビュー内容をより深く理解できると思います。

このコラムでも触れましたが、谷山さんはたいへん饒舌な方です。1を聞くと10は返ってきます。短いコピーの中に、とてつもない量の思考と論理が圧縮されているのだなあと改めて思いました。インタビューは楽しくかつ勉強になったのですが、録音したものを文字に起こす作業が壮絶で、この時ばかりは谷山さんを呪いました(笑)

「おいしい生活。」は何を解決したのか

今野:講義の中で谷山さんは、広告コピーは描写でなく「解決」を目指すものだとおっしゃっていました。
 
谷山:正直に言うと、全てのコピーが描写ではなく解決でなければいけないわけではないんです。というか本当に優れた描写は解決力を持っていたりもする。つまり、「スゴイ!」とか「面白い」「感動した」と思わせられるだけでも、人を動かせて解決しているわけだから。そもそも描写と解決は相反する概念ではないわけですよ。ただ、コピーライターとか広告を作る人間は、描写力より多くの解決力をもっていなければいけないということです。

基本的にコピーライター養成講座に来る人って、コピーって言葉だから最初は描写の方に気持ちがいっちゃう。でも、まずは広告の仕事である「解決力を身に付けよう」って言っているのだと、ご理解ください。

今野:なるほど。ただ、名作コピーと呼ばれるものでも、時間が経つと何の問題をどのように解決したのか分からなくなるものもあると思います。例えば、糸井重里さんの名作コピー「おいしい生活。」は何を解決したのでしょうか?

谷山:本来は糸井さんに聞いた方が良いと思うけど(笑)

僕の解釈を言いますね。ただ、これは社会状況とかを説明しないと昔のことは分からないんです。ちなみに今野さんは何年生まれですか?

今野:1984年生まれです。

谷山:あの広告は1982年の広告だと思うので、今野さんが生まれる前の話になりますね。その頃、デパートと言えば三越が圧倒的な老舗のブランドで、三越の包装紙にくるまれた贈り物は「立派なもの」と思われていました。高島屋も伊勢丹もブランド力があったし、東急も沿線のオシャレな高級住宅地のイメージをまとってブランド力があった。

それに対して、当時の西武はデパートの中で相対的にブランド力が弱かったんです。西武鉄道というものが、元々秩父からセメントを運ぶために作られたわけで、デパートの高級感とは遠かった。

そんな中、西武には堤清二さんという偉大な経営者がいて、デパートの社長なんだけれど辻井喬という名前で純文学も書いているという。その堤さんが三越・高島屋・東急・伊勢丹に比べたら、イメージで負けている西武をどうするかってときに、「新しい文化を売る」というコンセプトで勝負することを考えたわけですよ。

1980年は、サブカルチャーだと思われていたものがメインストリームのカルチャーになっていく、文化的に大きな変動があった時代なんです。例えば、「コミケ」とか「おたく」という言葉が生まれたりもして、ガンダムや宇宙戦艦ヤマトが代表するマンガやアニメ、あるいは漫才が注目された。

堤さんはブランド力のあるデパートに対抗するためには、そういう当時胎動していた新しい生活文化と一緒に打ち出していかなければいけないんだという意識があったと思う。それで、糸井さんはその要望に応えていったということなんですね。

次ページ 「世の中を変えたものほど、今の世では当たり前になる」へ続く

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