CMを人の脳裏に焼き付ける「面白さ」のつくりかた
監督は、埼玉大学の建設工学科卒。「だから絵や映像を学んだことはないんです。でも、人を笑わせることが子どもの頃から好きでした。ですからCMも、アート性の高いものより面白さで人を惹きつけたいと思っていました」。
色々な「面白さ」がある中でも、監督が特にこだわるのが「会話」の面白さだ。CMプランナーが考えた“ 企画の根っこ”がどこにあるかまず確認し、そこにどんな要素を足し引きすれば、面白さの最大値が実現できるのか探っていく。「15秒や30秒で入るボリュームは決まっているので、会話は厳選しながら考えていきます。この辺りは経験を積むうちにだんだんわかってきました。難しいのはさじ加減で、面白さを狙いすぎると、見る人はしらけてしまいます。やりすぎず、面白い。そのさじ加減がうまく行けば、多くの人に受け入れられるCMになると思っています」。
「1本ごとにどういう面白さを狙うか決める」と言う監督。二階堂ふみが出演するネオファースト生命の「○○の妻シリーズ」では、○○の妻が架空の存在であるにもかかわらず、夫である目玉親父やショッカーを全力で心配し、奥さんになりきるという面白さを演出。日野自動車の2トン車は「ヒノノニトン」という語呂に着目して、「トントントントン ヒノノニトン」という音を軸に笑いのCMシリーズを創り出していった。
タレントの意外な一面を引き出す演出とは
監督の仕事には、タレントが出演するCMも多いが、そのタレントの持つ面白さや意外な個性をどう引き出しているのだろうか?「そのタレントの方の今までの仕事を拝見して、性格や話し方、たたずまい、瞬発力の有無などを研究し、そのセリフを話すとどうなるか強烈にイメージします。初めて起用する人は、最初に会った時のファーストインプレッションの感覚を大切にしていて、コンテを説明する時も、“こう言ってほしい”となるべく言わず、まず一度芝居を見せてもらって、その人なりのベストを探っていきます」。
アドリブも、面白さをつくる要素のひとつだ。「こう言ってくれと言わずにご本人から出てきたものには、予期せぬ面白さがあります。それは脚本の無い日常会話そのものです。僕はアドリブ=リアルだと思っていて、リアルなものが出るようなCMをつくれたらいいなと思っています」。役者にアドリブを要求することはないが、セリフが終わってもなかなか「カット」をかけないというように、余白を持たせることで、面白さを引き出している。
話が尽きない中、第3回「チャレンジャーdeないと」は、次のような浜崎監督の言葉で締めくくられた。「演出コンテどおりに撮るだけだとCMは面白くなりません。撮影現場で言い方、表情のニュアンスを変えたり、セリフそのものを変えたりと、どんどん修正をかけてよりいい方向に持っていきます。現場は本当に“ 生もの” なので、面白さは現場で作っていくものだと思っています」。
- 1本ごとに、どういう面白さを狙っていくかを決めて臨む。
- 演出コンテをベースに進めていくが、現場でどんどん修正をかけていく。
- 予期せぬ面白さは、現場の“余白”から生まれる。
浜崎慎治(はまさき・しんじ)
1976年鳥取県生まれ。2002 年TYO入社。2013年よりワンダークラブ所属。最近の主な仕事に、KDDI au「三太郎」シリーズ、TOYOTOWNシリーズ、三井不動産レジデンシャル「タイムスリップ!堀部安兵衛」、日野自動車「ヒノノニトン」、家庭教師のトライ「教えて!トライさん」シリーズ、ネオファースト生命「◯◯の妻」シリーズなどがある。
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