「取材先に対して事前に原稿確認はすべきか?」「取材時に謝礼は払うべきか?」など、スタンスの違いはあるものの、メディア業界には基準たるものが存在していないケースが少なくない。また編集者・ライター間のコミュニケーションでメールを主流とする昨今は、双方の本音が見えづらいことによる齟齬も発生しやすい。
10月31日に発売した『編集会議』では、メディア業界の実態を可視化することで一定の基準を見出すべく、また現場での本音を探ろうと、編集者・ライター100人に対するアンケートを実施。メディアの実情を浮き彫りにした調査結果を誌面に掲載している。
冒頭では、昨今話題になった捏造記事や「エア取材」の記事について聞いた。「最近、捏造記事や「エア取材」疑惑(実際は取材していないのに、あたかも取材したかのように書かれた記事)などが話題になりました。編集者やライターとして、率直にどのように感じましたか。また似たような問題に遭遇したことはありますか?」という質問に対し、以下のような回答があった。
いい加減なメディアが散見される中、あってもおかしくないと感じた。これまで可視化されにくかっただけで、紙の雑誌でもあったのではないか。
まあ、書けてしまうよね、というのが正直な感想です。かくいう私も、友人の編集者にやってもないダイエットサイトの登録者として、勝手に顔写真使われて吹き出しで感想書かれたり、ビューティ系雑誌で撮影現場で栄養ドリンク一回飲んだだけなのにその栄養ドリンクの愛用者として紹介されたり。物事の大小はあれど、そういう小さな「これくらいならいいよね」はいくつもある気がします。
SNSやブログの延長線上に生息する仮想ジャーナリズムの副産物的事件だと。
情報過多、信頼性の薄いサイトなどの乱立で、情報発信サイドの責任感が薄れているように感じました。一方で人手不足による取材時間不足等の問題が引き起こしているとも考えられるとも感じました。
エンターテインメントの範疇であれば、少しの嘘は、スパイスとしてアリと考える。「嘘」というか、捉え方の問題というか。情報が溢れている昨今だから、受け手の感じ方次第。全てを鵜呑みにしないとか、受け手側の賢さが求められると思う。
正直、あまり驚きませんでした。今いる媒体は、エア取材こそありませんが、取材をせずにネットを見て書いたり以前の記事をリライトしたりが往々にしてあります。私は新聞出身なのでとても恥ずかしいことであり、記す側がしっかりと取材をせずに書くことは読者を裏切る行為だと思っています。嫌だなと思いながら仕事をしている折のニュースだったので、作り手のモラルの低さはどこも一緒だなと感じました。よその動きを知ったという意味で発見もありました。
捏造しているケースは見受けられないが、専門的な知識に対して知識が薄い人間が書いていることが捏造につながっている認識はある
私のところにも、文字起こしデータが支給され、あたかも取材したかのように書いてほしいという依頼がきますが、あまり楽しい仕事とは言えないですね。効率化を考えるとこのようなかたちの依頼になるのはわかりますが…。あくまでライターは取材してなんぼですし、取材前準備、取材も含めてライターの仕事だと思っています。自分で取材していない案件は力も入りませんし。
豊洲市場問題と同じく、責任者不在、縦割り、チェック機構不在、意識の問題が背景にあると思う。
自分の会社も被害を受けたことがあります。どのようにすれば確実に被害を回避できるのか、まだ答えが出せていません。今のところ、ライターさんとの信頼関係が大切だと思っています。
どこまでが「エア取材」になるのかはわかりませんが、かつて(と言っても5~6年前)社内の別の誰かが取材した素材を使って、別の記事に仕上げるよう指示された事があります。初回取材から5~6年も経っているので取材し直した方が良いと意見し、上司とケンカになり、自腹で取材に行くことで同意してもらいました。結果は取材し直して良かったと思いました。10年程前の旅行ガイド本で、制作下請けの会社にいた頃の話です。それが原因で辞めました。
同業者として、捏造記事やエア取材記事に対する憤りを見せる意見が多かった一方で、「仕方ない」「ありえる話」「原因は悪意ではなく労働環境の悪さ」などの意見も散見された。10月31日に発売した『編集会議』では上記についての詳報のほか、以下についての回答を掲載している。
- 編集者から見たライターの実態
- ライターから見た編集者の実態
- 睡眠時間や休日の有無などの生活面
- 編集者・ライターとの人脈接点
- 紙/Webでの平均的な原稿料
※本調査の回答者データは以下の通り。
10月31日発売の『編集会議』では以下について特集。書店などでお手に取ってご覧ください。
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