グランプリ受賞作、ここがすごかった!
—今回のグランプリ作品について説明いただけますか。
木村:モバイル部門のグランプリは、「ハングリズム」(Mars)。
「世の中がイライラしてきたら、スニッカーズの値段がさがったらいいのに。だって甘いものを食べればみんなのイライラが解消するでしょ。」こんな妄想をモバイルで実現したキャンペーンです。
どういうことかというと、SNSでつぶやかれているワードを、MITと共同開発したアルゴリズムでリアルタイムに分析して、社会の空気がどれくらいポジティブなのかネガティブなのかを数値化して、ネガティブが増えるとスニッカーズの店頭の値段が一段階下がるというしくみを開発したんです。
スニッカーズの店頭価格が、株価のように、なんと1日に100回以上も変動するんですよ。そんなこと今の流通の常識では絶対無理だと思うでしょ。でも、これを、アルゴリズムの数値をモバイル上でクーポンに変換するだけで実現してしまった。つまり、セブンイレブンのレジでモバイルクーポンを見せれば、割引されてその値段で買えるんです。シンプルかつ見事なモバイルドリブンなアイデアですよね。
世の中のハングリーが増えると、世の中のアングリーも増えてしまう、するとスニッカーズの価格が下がって買いやすくなるから、お腹が空いている人が減ってイライラも減る。こう考えると、僕らの社会をちょっとだけ人間らしくするような気がするし、これはまさに「You’re Not You, When You’re Hungry」というスニッカーズのブランドメッセージをみんなが体験できるようにしています。これがHow it worksの部分で評価されて、他に候補があがらないほど、圧倒的なグランプリに選ばれました。
デジタル部門でグランプリになったのは、クルマの自動駐車機能を訴求した「インテリジェント・パーキング・チェア」(日産自動車)。
会議が終わった後に手を叩けば、バラバラに散らかっている椅子が自動的に整頓されるというものですね。
ヒューマニティでいうと、「面倒なことが一瞬で片付くと、人生がスムーズに行くような気がするよね」という感じでしょうか。クルマの自動駐車機能って、実は僕らの人生にこんな直感的な気持ちよさをもたらすんだ、という気づきがあります。
そんな本質的なベネフィットを伝えるために、「手を打つだけで片付いてしまう会議室の椅子」を、センサーなどのデジタルテクノロジーを使って開発し、実際にいくつかのオフィスに導入してしまった。
全審査員が、今回一番嫉妬した作品だと語りました。これも他にグランプリ候補があがりませんでした。
—どちらもいわゆる広告表現でなく、テクノロジーで解決していますね。
はい。プラットフォーム開発あるいはサービス開発ですね。でも「世の中のムードをモバイルクーポンに変換する」のも「自動で片付く椅子を開発する」のも、実はそんなに最先端の難解なテクノロジーを使っている訳ではないんですよ。自分でも思いつきそうだけど、誰も実現したことがなかったヒザポンなアイデアなんです。
—デジタルクラフトのグランプリは?
グランプリは「ミュージアム・イン・ザ・クラウド」(全日本空輸)でした。
これは、日本のさまざまなアート作品をサイト上のバーチャルなミュージアムで体験できるというもので、デジタルデザイン、インタフェース、ユーザーエクスペリエンスのどれもがバランスよく仕上がっていて、実際に日本に行って現物を見たくなる。「エモーショナル・トレーラー」(メルボルン国際映画祭)とグランプリを激しく争いましたが、初年度のグランプリとしてこちらがふさわしいということになりました。