本屋はAmazonにない価値をどう生み出すか
Amazonといえば、やはり最近の話題は定額読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドル・アンリミテッド)」のリリースです。同様のサービスはNTTドコモの「dマガジン」など先行しているものもありましたが、常時12万点という商品数で満を持してのAmazon参入は、本の買い方に大きな影響を与えると予想されます。
Amazonと出版社の間での支払い条件の変更をめぐる配信停止など、まだサービスとしては安定していませんが、そもそもの条件変更の理由が「Amazonが想定した以上のダウンロードがあり予算が不足した」ということですから、サービス自体は大きな注目が集まったと言えるのではないでしょうか。本が“所有するもの”から“消費するもの”へと、コンテンツとしての性質が変化しているようです。
既存の書店はというと、カフェを併設する、という改装が広がっています。取次会社のトーハンがカフェの導入支援として「低投資型のパッケージ」を提案するなど、文具売り場の導入に続いて、カフェの併設は近年のトレンドといえます。その効果としては利益率の向上とともに、来店頻度や滞在時間にも影響があると思われます。
取次の大阪屋(現在は大阪屋栗田)が子会社として設立したリーディングスタイルは、2013年にマルノウチリーディングスタイルというカフェ、雑貨複合の本屋をオープンしましたが、2016年10月までに別屋号での出店を含め、すでに6店舗を運営しています。選書、空間づくりも含めてプロデュースされた本屋には、出店の依頼も多いようです。
あるいはイベント。オープン以来毎日イベントを開催している本屋B&Bがその代表ですが、あゆみBOOKS高円寺店が可動式本棚を導入し、イベントスペースを持った書店 文禄堂高円寺店に改装を行うなど、イベントを開催する書店はどんどん増えています。本屋でのイベントは、「本を読んだ後の体験」まで読者に提供することにより、Amazonにはないリアルな価値を生み出しているのです。
出版社と読者をつなぐ独自のコミュニティ
そのようななかで、さらに注目したいのは、今までは本屋として認知されなかったような、より小さな本屋です。熊本県阿蘇郡「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」(日本一長い駅名とのこと)にあるひなた文庫は、週末だけ駅舎にオープンする古書店です。普段は別の仕事をしている店主の二人が、本屋が少ない地方での持続可能な形を目指して運営しています。
本の販売だけではなく、原画展や地元の出版社「伽鹿舎」と協力した「新刊の製本ワークショップ」を開催するなど、地域の交流の中心となっています。現在は熊本地震の影響で駅舎への運行は復旧していませんが、そうした環境を逆手にとって「駅舎=本屋」に泊まるオールナイトイベントを開催するなど、ユニークかつ精力的な取り組みも行っています。
東京都内であれば、赤坂の双子のライオン堂があります。読書会を開催したり、出版社が多い東京という土地柄を活かして、「平凡社ライブラリー全点フェア」や、直取引や注文 出荷を中心とする出版社が集まった「版元やおよろずフェア」を開催するなど、出版社(者)と読者をつなぎながら独自のコミュニティを形成しています。
これらの本屋は、「少人数運営」、「古書、個人製作の本も積極的に導入」し、「雑誌、取次による配本に依存しない店づくり」をしているといった共通点があり、全国にどんどん数を増やしています。また単店の売上規模が小さいため、一般的な取次仕入のルートを持っておらず、直取引や独自のルートで新刊を仕入れているケースがほとんどです。1003(兵庫)、blackbird books(大阪)、ひらすま書房(富山)、ひとやすみ書店(長崎)……。数え上げるとキリがありません。
やり方次第でコンテンツは適切に届けられる
これらの本屋は、最初からAmazonとの対立を想定していないように思えます。売上規模も小さい。しかし、独自のコミュニティを築いており、本によっては何十冊も売れるときがあります。先ほど挙げた本屋のいくつかは、私が流通させている『これからの本屋』や『HAB』を単店で10冊以上売ってもらっています。
アメリカでは、独立系の書店に最もプロモーションコストを割いているそうです。Amazonはあくまで売れる本を仕入れる。独立系書店は「これは」と思った本を推薦してくれて、そこから火がついてAmazonが仕入れるようになるから、と(参考『本屋がなくなったら、困るじゃないか』(ブックオカ編、西日本新聞社)。
「Kindle Unlimited」のように、コンテンツとして広く大量に読まれる本。リアルな書店で手にとって見つけて欲しい本。あるいはもっとニッチに、特定の読者やコミュニティに読まれる本。これらはすべて同じ本ですが、読まれ方、売り方はそれぞれ異なります。従来の出版業界における本の販売方法は、出版-取次-書店とほぼ単一でした。しかし、この本はどの流通と販売先で活きるのかを考え、最適化できる時代です。
今はむしろ選択の幅が広がっていて、やり方次第で、本をコンテンツを、適切に届けることができる時代になってきている。Amazonと現在の本屋の対比は、それを端的に表しているように思います。
※本記事は10月31日発売の『編集会議』に掲載されているものです。同号では以下のような特集を組んでいます。ぜひ書店などでお手に取ってご覧ください。
【特集】“良いコンテンツ”だけじゃ売れない!メディア戦略論
●『週刊文春』編集長×「Yahoo!ニュース」ビジネス責任者 対談
●ダイヤモンド社の本はなぜ売れるのか!?リアル×ネット戦略
●塩谷舞氏が明かす「バズるWebコンテンツのつくり方」
【特集】2017年版 編集者・ライター、生き残りの条件
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