広告コピー「昨日まで世界になかったものを。」が旭化成のグループスローガンになるまで

企業広告と技術広告のせめぎ合い

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旭化成 広報室長 山崎真人氏

山崎:「昨日まで世界になかったものを。」を使用し始めて10年になります。このコピーのもと、キャンペーンも現在までに15本展開してきました。1作目は「水の星、ふたたび。」。直近は「エコは、この星の需要だ。」です。そのときどきの世の中、社会の課題解決のために、旭化成の持つ技術・事業がどのように貢献しているのか、ということを訴えたシリーズです。

磯島:新聞広告では45段というスペースで展開しているのですが、実は技術の話は15段しか書いていないんですよね。第一弾の「水の星、ふたたび。」で言えば、その2倍以上のスペース=30段を使って、干上がった大地について話している。水問題を投げかけることに、自社技術・事業を広告することの倍の時間とスペースを使っているんです。

しかし、これが企業広告のひとつのポイントになるのかな、と思っていて。「私たちは水問題を解決しています」と言うよりも、「私たちは、水問題について、あなた方と一緒に悩み、考えています」と言う。それが、このシリーズ広告が、これほどまでに続いてきたひとつの要因かなと思います。

広告コピーがグループのスローガンに

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電通 クリエーティブ・ディレクション・センター クリエーティブ・ディレクター/コピーライター 磯島拓矢氏

磯島:コピーを決めるって、実は「うちの会社って、なんだったっけ?」ということを改めて話し合い、社内の皆で考えないといけないんです。だから僕ら制作者は責任を持って、皆さんからお話を伺わなければいけないと思っています。そして、その役割は、基本的に変わっていないと思います。自社のコピーを考えることは、自分たちの仕事について見つめ直す作業でとても地味なものですが、それを通じて、多くの社員の皆さんでいろいろ考えていくことが改めて大事だと思っています。

「昨日まで世界になかったものを。」というフィルターを使って、社内にたくさんある技術を山崎さんたちが棚卸しするという、この作業が一番大変だったと思います。

山崎:「昨日まで世界になかったものを。」は、新しい経営計画がスタートした2011年に、広告のキャッチコピーから、当社のグループスローガンに“昇格”したんです。グループ理念や、ビジョン、バリューの見直し、行動指針は何がふさわしいかというときに、社内にも浸透しつつあったこのコピーが採用されました。企業広告は、毎年変えるものではなくて、じっくり伝えていくものだと私は思っています。ある程度の時間をかけて、地道に伝えていく。それが企業広告というものだと思っているので、10年近く経ちましたが、今はまだ変えるつもりはありません。

磯島:旭化成さんとの仕事を通じて、僕自身の仕事のやり方もちょっと変わりました。他の企業や商品との差別化だけではなく、もう少し俯瞰した視点から、自社商品も他社商品も包括した、今この世の中・社会にとって「うちの商品が必要なんです」と言う方法を考えるようになった。その点でも、とても恵まれた、良い仕事ができたなと思っています。

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