朝日新聞の「テレビのネット同時配信全面解禁」という報道が生んだ、大きな誤解

民放が同時配信しない理由は?

いちばん大きいのは、著作権です。テレビ番組を通信に乗せて配信するためには、そのために許諾を得る必要があります。その著作権処理の作業は大変です。最近は、見逃し配信サービスが出てきてドラマや一部のバラエティは配信のための著作権処理ができていることが多いです。でも、他の番組は配信用に著作権処理ができていません。

テレビの最新の動きをまとめた「拡張するテレビ」詳細はこちら(Amazon)。テレビに関する話題に興味がある人は、ぜひ11月16日から18日のInterBEEに行ってみてください。InterBEE Connectedという企画コーナーでは、連日セッションが行われ、著作権だの配信だのもテーマとして扱われます。私も企画をお手伝いし、モデレーター役を務めたりします。入場できれば無料で聴講できるので、ぜひいらしてみてください!

同時配信のためには、そういう処理作業が必要だから、できないのです。

もうひとつの問題は、ネットワーク負荷です。一度にたくさんの人がアクセスすると、サーバーが落ちたりしますよね。テレビ番組を放送と同時に配信すると、莫大な負荷がかかることが予想されます。サーバーが落ちないようにするには、かなりコストをかける必要がある。そのコストは誰に負ってもらうのか。視聴者サービスとは言え、余計にコストがかかることを、簡単にはできません。

著作権の問題、ネットワーク負荷の問題、この2つの解決ができないと、放送法で解禁しようが、同時配信はできないのです。

でも、欧米でもアジアでも、テレビ放送はネットで同時配信されています。例えばイギリスでは、「放送の同時配信は、放送と同じに位置づける」ということにしているそうです。確かに、視聴する側からすると例えばワンセグと同じなわけですからね。放送なのか通信なのかの区別は、意味がない。VODや見逃し配信のようなものはどう見ても「二次使用」ですが、同時配信はほとんど放送と同じだよねと。

日本でも、せめて著作権の問題はイギリスに倣っていいんじゃないかなと、第三者としては思いたくなります。

そうするのかも、どうするのかも、ちゃんと議論しないといけないでしょう。そして日本の業界ではこれまで、同時配信についてオープンにきちんと話し合われてきませんでした。朝日新聞の、私の目から見るとデマに近い報道も、前向きにとらえて、議論するためのいい機会になったねと受けとめていいんじゃないでしょうか。

いやせっかくだからそうしましょうよ・・・と誰にともなく私は言いたいです。なんだったら、アドタイ上でやってもいいんじゃないかな、その議論。

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境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

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