本職の校閲者から見た「校閲ガール・河野悦子」とは?

話題のテレビドラマ「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」は、2人抜きには誕生しなかった!?好評発売中の『編集会議』では、原作『校閲ガール』シリーズの編集を手掛けるKADOKAWAの編集者 岩橋真実さんと、ドラマの校閲監修を務める校正・校閲の専門会社鷗来堂の代表 柳下恭平さんによる対談を収録。本記事ではその一部を公開する。
「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」は、日本テレビ系にて毎週水曜よる10時より放映している。

柳下:本づくりの仕事をしたいと思ったとき、一般的に想像されるのは編集者ですよね。ぼく自身も編集者をしていましたが、校閲という仕事を知っていたらはじめから校閲者を目指していたかもしれない。編集者が校閲者を育てることもあればその逆もあり、その関係は二人三脚のようなものです。対等な関係を築くためにも、校閲者の認知を高めたいというのが、会社設立当時からの変わらない想いですね。

岩橋:じゃあ、原作に出てくる貝塚のように、まるなげしてくる偉そうな編集者はイヤですよね(笑)。

柳下:でも、ぼくは貝塚擁護派なんですよ(笑)。彼は徹頭徹尾、作家さんのことだけを考えているじゃないですか。それは編集者としては、あるべき姿ですよね。たしかに校閲者への指示や態度は雑だけど、その分ゲラのチェックはぼくらがきちんとすればいいのかなと思ったりもします。

岩橋:そうなんですね。彼がどれだけダメな奴でも、編集者として芯はある人であってほしい。『校閲ガール ア・ラ・モード』で貝塚のエピソードがあるのですが、宮木さんに感想をお伝えするときにそう考えました。推敲に反映されていると思います。

柳下:まあ、現実にいたら一緒に仕事したくはないんですけどね(笑)。

岩橋:柳下さんの目から見て、悦子は校閲者としていかがですか。

柳下:すごく向いていますよね。悦子はファッションが好きだけど、供給側には情熱が向かず、着ることと見ることだけが好きだった、というのがお気に入りのくだりなんですが、そのスタンスは校閲者に近いなとはじめて読んだときに思いました。ぼくも本は好きだけど、書きたいと思ったことは一度もなく、純粋に“読む”ことが好きだから校閲の仕事をしているところがあるので。それに、記憶力が良いだけでなく、ひとつの文脈を読むのに必要な記憶を、彼女はそのつど引っ張り出すことができる。「鯛焼きやめてパンケーキっぽい形にしたら儲かるかな」という台詞に対して、「それは今川焼きっていう別の食べ物になる」と切り返すところも好きですね。校閲者っぽくて(笑)。

岩橋:的確な指摘も、校閲者に欠かせない力ですよね。

柳下:校閲の仕事は、正確には間違いの指摘ではなく、情報が誤解なく伝わるようにすることだと思っているんです。もちろん著者の意図がそのまま読者に受け入れられる必要はないし、時代によって解釈が変わることもあるでしょう。だけどやっぱり、誤解だけはされたくない。そのためにも言葉の意味を正確に汲みとり、伝わるように整えていきたいんです。ぼくらの赤字がわかりにくいせいで編集者に二度手間を与えたり、著者が余分に書き直すことになったりしたら、そこで新しいミスが発生する恐れがあります。それを防ぐために、たとえばぼくらが書き込んだ指摘に〇か×をつければ済むようにしたり、線の入れ方ひとつにも工夫をしています。

・・・それを実践するために現役の校閲者でもある柳下さんが普段意識していることとは? 続きは、発売中の『編集会議』をご覧ください。


鷗来堂 代表 柳下恭平 氏
校閲者。どちらかといえば、好きな作品はゲラで読むより、本になってから読んだほうがうれしいですが、仕事ですからもちろん贅沢は申しません。神楽坂の書籍校閲専門会社、鷗来堂に所属しています。

KADOKAWA 編集者 岩橋真実 氏
2007年メディアファクトリー入社。本の情報誌『ダ・ヴィンチ』編集部で雑誌と書籍の編集を担当。社の合併を経てKADOKAWA文芸・ノンフィクション局に2015年異動。ほかの担当作に「ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズ。


文:立花もも

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