川島 高 氏
アートディレクター。1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。
Facebook: https://www.facebook.com/takashi.kawashima
Twitter: https://twitter.com/kawashima_san
一夜明けた、サンフランシスコの光景。
――歴史的な接戦を繰り広げた、2016年米国大統領選挙。広報・コミュニケーション・メディアの専門家は、この選挙戦をどう見ているのか?サンフランシスコ在住の川島高氏が、一夜明けた現地で感じたこととは。
今回の大統領選を通じてトランプの存在を知った方も多いかもしれませんが、元々ドナルド・トランプはメディアによって世間に名を馳せた、言わば「実業家という肩書きの芸能人」です。
何を言えば、そしてどう振る舞えば人が喜ぶか、それを熟知したタレントです。政治(というか大人の常識)を無視した振る舞いや言動、ころころと変わる政策や挑発的な態度。多くの識者やメディアは(そして共和党の重鎮さえも)憂慮し、不支持を表明していました。そして選挙の当日まで、多くの世論調査ではヒラリーが当選するものと報道されていました。
僕が住むサンフランシスコは、アメリカでも特にリベラル色が強い都市です。少なくとも僕の周りでは、表立ってトランプを支持する人に一人として会ったことがありません。
そんなわけで、大統領選から一夜が明けた今日は、街全体がなんだか重い空気に包まれていました。今朝息子を小学校に送りに行くと、いつもと変わらぬように走り回る子どもたちをよそに、大人たちは皆どことなく目が虚ろ。中にはお互いに抱き合いながら涙を流す人の姿も。
他方で、アメリカのおよそ半数がトランプを支持したのも事実です。都市部と地方、アメリカ全体が真っ二つに割れた事実を突きつけられた格好です。しかしながらその実態は、そしてその声は、大手メディアにはほとんど拾われていませんでした。
期待をされたソーシャルメディアにおいても、エンゲージメントを高めるためにパーソナライズされた(つまり自分好みの)ニュースだけが切り取られ、それによって人々は錯覚し、また多くのオンライン記事では「いいね!」やクリック数に先導された深みのない、または偏った情報が飛び交いました。
こうしてメディアに取り上げられなかった、むしろそうしたメディアに対する反感を持った層が、静かに、しかし力強くトランプに共鳴したのだと思います。
メディアによってつくられたトランプが、そのままメディアを食い負かした、そう言えるのかもしれません。
権力に任せて人を蔑み、宗教を排斥し、差別を容認する。
そんな大人がこの国の一番偉い人として選ばれた事実を、子どもたちにはなんて説明すれば良いのか。アメリカに住む多くの親たちは、その問題に直面しています。
アメリカに来て13年。アメリカ文化の闇、そして文字通りその広さを再認識しました。
【「米・大統領選」 関連記事】
コミュニケーション視点で読み解く、米・大統領選――識者はこう見る!(徳力 基彦 氏)
開票結果を速報、「データビジュアライゼーション」注目メディア(アレックス・ザバヴァ 氏)
メディアの注目を集め続ける術に長けていたトランプ氏(鶴野 充茂 氏)
米国民が共有してきた「普遍的な真実」は消滅した(岡本 純子 氏)
人の心を動かした、感情とシンプルな言葉(永井 千佳 氏)
メディアが本当の世論を読みとりきれていなかった(境 治 氏)
デジタルデバイスの深化が結果予測を誤らせた?(江端 浩人 氏)
美辞麗句より、「感情」に訴える言葉が響いた(片岡 英彦 氏)