「日本遺産」とは、各地に存在する文化財を「点」として指定・保存するのではなく、地域の魅力をその地に根差した歴史・文化を背景に、ストーリー(「面」)として活用・発信するための事業だ。従来、「保存」と「活用」の意味が含まれていた文化財保護の、地域による「活用」を促進するために文化庁が2015年度に創設した。
文化財単体では観光客の関心を集めにくい。そのため、伝統や歴史などと組み合わせた魅力的なストーリーを発信することで、文化財およびその地域への理解促進を狙う。例えば、岐阜市では織田信長が軍事施設の城下を接待のための「おもてなし空間」として形づくったというストーリーを23の文化財に紐づけて発信している。
東京五輪が開催される2020年までに約100件認定へ
認定は毎年約15~20件のペース。これまで宮城県の「政宗が育んだ“伊達” な文化」、群馬県の「かかあ天下-ぐんまの絹物語-」、京都府の「日本茶800年の歴史散歩」、佐賀県・長崎県の「日本磁器のふるさと 肥前~百花繚乱のやきもの散歩~」などが認定されている。東京五輪が開催される2020年度までに約100件の認定を予定している。2015年度は18件、2016年度は19件を認定済みだ。認定後は情報発信や人材育成、公開活用のための整備などを補助する意味合いで、3年間にわたって補助金が交付され、4年目からは自治体が自立して運営することを目標とする。
審査で重視されるのは「ストーリーの面白さ」「具体的な地域活性のビジョン」「実現可能な体制の整備」の3点。農産物を扱う場合は自治体以外に農産物の関係者まで、産品開発をする場合は産業開発の関係者までの協力体制が具体的に見込まれている必要がある。「ストーリーがあり、それを地域で活性化に向けてどう活用するのか」「具体的なビジョンがあり、体制をどう整備する必要があるのか」がポイントだ。さらに、ストーリーは「興味深さ」「斬新さ」「訴求力」「希少性」「地域性」の観点から総合的に判断される。
住民が自信を持つことで 町に一体感が生まれる
事業を担当する文化財部記念物課課長補佐の田中康成氏は、住民が地元に対して誇りやアイデンティティを持つことの重要性を語る。「地元の人が自信を持っていない土地には外部の人は魅力を感じません。また、誇りや愛着というのは第三者に認められることで自然とわいてくることもあります。文化庁が日本遺産に認定することによって住民が自信を持ち、自信を持った住民が積極的に動くことで町に一体感が生まれる。地域の魅力が高まり、人がより訪れるというような相乗効果を期待しています」。
現在の課題は、まだ広く知られていない「日本遺産」自体の認知度の向上だ。「文化庁から発信できることは限られますが、文化庁に持ち込まれるメディアからの広告提案を自治体に紹介しています。日本遺産という大きなくることが、結果的に日本遺産自体の広報活動になっています」。
今後は日本遺産をはじめ、歴史文化基本構想や歴史まちづくり法などによって、文化庁と国土交通省、農林水産省の三省庁の連携を強化し、文化財を活用した地域活性化を進めていくことを目標にしている。
11月1日発売の『広報会議』2016年12月号にて掲載中。本誌では、以下の内容についても聞いています。
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「広報会議」2016年12月号
[巻頭特集]なぜ地方創生に「広報力」が必要なのか?
観光・産業の活性化や居住・就労人口の確保などを目指し、「地域ブランド」の確立を課題とする自治体が増えています。行政と企業の枠組みを超え、協働による課題解決を目指すケースもあり、その中で広報・PRの力が必要とされる場面が増えてきました。今回の特集では2部構成で、「地方創生」に寄与し、地域ブランディングを実現するための動きをレポートします。
Part1 地域ブランディングと民間との協働を考える
●年に1度の「自治体の通信簿」発表に
2016年は石川県・金沢市が上昇
ブランド総合研究所 代表取締役社長 田中章雄
●特別座談会
茨城・群馬・佐賀が大激論!
「地域ブランド調査」に物申す
●広がるIT企業と自治体の協業
①ドローン活用
DJI JAPAN×岐阜県美濃加茂市
②官民連携プラットフォーム
Dropbox Japan、スペースマーケット 他×埼玉県秩父郡横瀬町
●TOPICS 企業版ふるさと納税がスタート
●「地域商社」の担い手が語る地方創生と広報の課題 WILLERグループ
●TOPICS 文化財をストーリーとして発信「日本遺産」
Part2 訪日観光とPR 「都市から地方へ」の動き
●REPORT
①物見遊山から「目的ありき」へ
訪日客向けサイト利用の変化
②「爆買い」から「体験」へ
中国人によるインバウンド需要の行方
●訪日客向けサイトリニューアルのポイント
西日本高速道路/福岡市「よかなび」
●熊本県×大分県
「攻めの情報発信」で観光振興による災害からの復興へ