引きこもっていた高校2年生の頃は、想像力を持て余して苦しかった(ゲスト:宮本亜門さん)【後編】

「演出家」という職業を意識したのは、その頃だった

宮本:そうですね。引きこもったときにずっとレコードを聞いていたんですけど、色々な音楽のイメージが高まって、吐きそうになっちゃうんですよ。だから僕は想像力が強すぎちゃったんだと思う。それをうまく口に出して相手に説明することもできないから、一人で体を揺すって興奮してるみたいになっちゃって。

これは危ないと僕も親も思っていて。でも、それは演出家という仕事をやれば解消できるのかなと思って、この道を選んでいったら、やっぱり解消できて。こういうのがなかったら、僕はきっとパンパンになって、おかしくなってたと思いますね。

権八:じゃあ演出家みたいなお仕事を意識されたのはその頃ですか?

宮本:その頃です。これを溜めてたら溢れ出ちゃうし、まわりから見ると、ただの不気味な子になるので。そこからですね。

権八:こういう言い方が正しいかわからないけれど、夢があるというか。もし、全国のそういう立場にある子が聞いていたら、すごいと思うんじゃないかなと。

中村:そうですよね。お家でレコードを聞いていて、イマジネーションというか、妄想力みたいなものが膨らみすぎてという話なので。

宮本:でも、ここにいるみなさんの仕事も妄想力が必要ですよね?

権八:そうですね。

宮本:みなさんも、そういうお子さんでしたか?

権八:ちょっと似たようなところはあるかもしれないですね。引きこもってはいないんですけど、僕が中学生ぐらいのときに「ベストヒットUSA」という番組があって、あれを毎週録画して、毎朝学校へ行く前に見て、飛び跳ねて、家族中に迷惑がられてから学校へ行くという。今思うと気持ち悪いですけど、そういう中学生でした(笑)。映像や音楽で、イマジネーションがガーッとなっちゃう感じで。

宮本:同じですね。最高の瞬間ですよね。無心になれるってね。

澤本:僕も無心になってたのかな。

宮本:仕事をしたらなりますか?

澤本:仕事してる途中は何も考えてないというか、素になることはあります。それは無心というんですかね。そんなかっこいいものじゃないような気がしますが。

権八:難しいですね、CMは色々な理屈もあるし。亜門さんは演出されているときに無心になっているという感じはあるんですか?

宮本:いつも無心になったらバラバラの舞台になっちゃうから。

一同:(笑)

宮本:「無心になってんのはお前だけじゃねーか」って言われたらおしまいですから(笑)。だけど、初めて台本を読んだり、オペラでは音楽を聞きながら台本でイメージをしていくときは、ゾクゾクっとくるタイミングがありますね。人に説明できないけど、「うおーっ!」と一人で喜んで、理屈が通らずに快感に入るので。

で、これではダメだと。理屈をちゃんと通すためにまず1回整理しようと考えていくと、あるアイデアは残り、あるアイデアは消えていく。あのゾクゾク感はたまらないけれど、稽古場に入ると役者たちがいて、彼らに納得してもらわないといけないから。「俺は面白いから、これをやりたかったんだ」と言っても、「何言ってんだ」となっちゃう。

少しずつみんなが理解できるように「これはなぜこうあるべきか」と論理立てて持って行くようにして。ただ、正直に言うと、僕は稽古場よりも部屋にいるほうが楽しいんですよ。

中村:あー、なるほど。

宮本:こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど。でも、もちろん役者とのコラボレーションは発見の連続ではあるので、また違う楽しさなのかもしれない。

次ページ 「思い通りにできなかったもののほうが評判が良いことも・・・」へ続く

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