第1部 ソフトバンクのテレビCMの活用について
【登壇者】
ソフトバンクコミュニケーション本部 広告宣伝統括部 宣伝部 部長 小林孝司氏
携帯電話やインターネットなどの通信事業を手がけるソフトバンク。2016年に10周年を迎えた「白戸家シリーズ」をはじめ、ユニークなテレビCMで加入者を増やしてきた。そのCM戦略を語るうえで、重要になるのは同社のカスタマージャーニー内でのCMの位置づけだ。
「携帯電話を買い替えるタイミングは、電話が壊れたときやローンを支払い終えたとき、転勤や家族が増えたときなどのライフイベントに関連しており、日常的に買い替えを検討している人は決して多くはありません。そんな中で、マスにリーチするテレビCMの役割は、携帯電話をいざ変えようというタイミングを迎えたときに、ソフトバンクを思い返してもらったり、店舗をのぞいてもらったりするための“ブランドストック”を溜めることです」
このブランドストックを効率的に蓄積するうえで核となるのが「CMフレーム」。そのフレームとなる「白戸家シリーズ」は、2007年6月から2016年8月までの10年間で合計212本も放映してきた。これだけ長く同じシリーズのテレビCMを続けることで、例えば白い犬が出てくるだけでソフトバンクのCMだと気付いてもらえるようになったという。
「一般的なテレビCMでは、視聴者にブランド名までを記憶してもらえず、どの企業のCMだったのか覚えていないというケースが多々あります。一方で、白戸家シリーズの場合はこれまでの蓄積から、視聴者にすぐにソフトバンクの広告だと気づいてもらうことができ、認知効率が高まることが調査からも分かっています」
ただ一方で、10年間も続けることで、新鮮味が薄れ、視聴者が飽きてしまう危険性もある。そこで、軸となるタレントに加えて、その時々の旬となるタレントを起用してきた。最近では、大相撲で優勝した琴奨菊や映画が大ヒットした「ゴジラ」が出演したほか、10周年のタイミングで新しい家族として弟役に俳優の佐藤健さんが加わった。
また、テレビCMとWebとの役割分担についても言及。テレビCMを基点にさまざまな接点で一環した顧客体験を提供しながらも、若年層へのリーチを補完するメディアとして、さらに重複接触による理解向上のためにWeb上でのキャンペーンを行っているとした。
最後に、広告における重要なメッセージとして、ダーウィンによる有名な格言「変化できるものが生き残れる」を紹介し、クリエイティブとメディアともに常に改善が必要であるという考えを紹介した。
第2部 改めて、「テレビの力」を考える
【登壇者】
インテージ MCA事業本部 副本部長 兼 IXT(イクスト)取締役 塩塚義雄 氏
第2部では「改めてテレビの力を考える」と題して、テレビCMの効果を分析するための調査手法が紹介された。まず、若年層のテレビの視聴時間が低水準になり、テレビCMの効果が疑問視されているが、一方でその圧倒的なリーチ力を代替できるメディアがないことを指摘する。
「テレビCMの課題は、CMに接触した生活者がどのようにアクションにつながったのか導線が不明瞭であることです。正しくターゲティングが行え、正しく効果測定ができれば、テレビのCMの価値はもっと高められると考えています」
そこで、テレビの効果を把握するための取り組みとして、3つの調査手法を紹介する。まず1つ目が、テレビCMのクリエイティブチェックの新手法である「表情解析」だ。日本人の繊細な表情変化も捕捉できるものとして、オランダ・ノルダス社のフェイスリーダーを採用し、顔の表情をリアルタイムに調べ、視聴者の心の動きを把握する。
特にテレビCM評価では、「注目顔」「笑顔」「思案顔」の3つの表情指標を追うことで、CMの効果を推測できるモデルを開発している。あるCMでの表情指標の動きを具体的に例示し、同じクリエイティブでも男女によって指標に大きな差が出ることなどを説明した。
「表情解析を重ねてきた結果、商品やサービスへの利用意向が高まるテレビCMの特徴は、笑顔と注目顔のスコアがどちらも平均以上となったり、CM開始後2秒以内に表情になんらかの変化が見られることが分かりました。このようにCMを見た人の表情を要素分解することで、より効果的なクリエイティブを作り出すことが可能になります」
2番目の調査手法として「インテージシングルソースパネル(i-SSP)」を紹介。i-SSPはインテージが2013年にリリースしたサービスで、一人のパネルに対して、テレビ視聴からWebアクセス(PC、スマートフォン)、購買履歴をログベースで捕捉する(アンケートでその他の情報接触や価値観・意識を聴取)。テレビの視聴状況では、専用端末がテレビから流れている音声を取得し、マスターのデータベースと照合することでどの番組を見ているのか判別している。そのため、リアルタイム視聴はもちろん、タイムシフト視聴の情報も取得できるという特徴を持っている。
「i-SSPの最大の強みは、完全個人のシングルソースであることです。テレビ、PC、スマートフォンという3デバイスのデータと購買データを繋いで、どのようなメディア接触が最終的な購買に結びついたのかを追うことができます」
例えば、ある40代の男性の大晦日のメディア接触を調べたところ、NHK紅白歌合戦を見ながら、スマホではNHK紅白アプリでテレビを補完したり、グノシーでニュースをチェックしながら、年が明けると「年越しライブCDTV」をテレビで見ながら、LINE、メール、グノシーを繰り返し利用するという実態が分かった。また、ある化粧品のロイヤルカスタマーの動向も調べた。ホームセンターでリピート購入をしていたユーザが、徐々に購入場所をスーパーやドラッグストアに変えていったのだが、その時ネット行動では、化粧品メーカー各社のブランドサイトを訪問し、比較検討したり、@コスメで商品名検索したりしていた(つまりはブランドスイッチを検討していた)ことが分かった。最終的には、普段使用しているブランドの新商品CMに接触し、その新商品を購入する形で落ち着いたのだが、一歩間違えば、他社製品にスイッチしている状況だった。
一方で、シングルソースパネルにはサンプル数という課題もある。i-SSPはクロスメディアを把握するパネルとしては国内最大だが、調査内容によってはサンプルが足りないことも起こるため、調査手法の3つ目である「全数系ビッグデータ分析」を積極的に取り組んでいる。その中で、インターネット結線されたTV(スマートテレビ)の視聴ログデータを扱うIXT(イクスト)社のデータについて紹介した。IXT社のスマートTVの視聴ログの台数は現在約30万台で現在も右肩上がりに増加中。
「このデータを手に入れたことで、これまで分からなかった各エリアの視聴状況が、秒単位の詳細な粒度で分かるようになりました。例えば、熊本地震発生直後に九州周辺で一気にTV接触率が高まったケースや、民放キー局の同一番組であってもエリアによって接触率に大きな差が出ることが捕捉できました。一方で、視聴状況の属性がないことがネックであり、その解消のためにネット調査用のモニターとの組み合わせや、i-SSPを教師データとして推定属性を付与する試み等を行っています。」
最後に塩塚氏は、インテージは「定性的データ」「シングルソース」「全数系データ」を駆使し、「テレビの力」を正しく測っていくと力をこめて語り、講演を結んだ。
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