メディア界のモラルハザードを打ち破れるか?
筆者は、この光景に、現在のメディアとメディアを取り巻くビジネスの、ある種のモラルハザードが極まった構図を見ないわけにはいかない。
構図とは、フェイクニュースがカネの成る木とばかりに、せっせと刺激的な見出しの記事を量産する若者がいたとして、その若者らが量産した記事を、その刺激を求める数多くの人々に届け続けるFacebookをはじめとするソーシャルメディアがあり、そして、集まった人々に向けて、広告を自動的に配信し続けたGoogle AdSenseなどがあったというものだ。
もちろん、そもそもそのようなフェイクニュースとそれに群がる人々をターゲットとして、そこに大量の広告資金を投入し続けた人々があったことも忘れてはならない。この連鎖の中のどれか一つでもピースが欠けていれば、このような「フェイクビジネス」は成立しなかっただろう。
だが、現代のメディア界に出現した大規模なモラルハザードの構図は突き破れない種類のものなのだろうか?
筆者はそうではないと、考える。遅まきながらGoogleは「広告が虚偽のニュースサイトに掲載されないよう規定を変更する方針」を明らかにした。また、TwitterはCEOが「白人至上主義団体の広告」を表示してしまったことを謝罪し、対策を強化する姿勢を見せた。
また、Facebookでも、CEOが記事のファクトチェックの仕組みを強化するなどの対策を公表するなど、テクノロジー勢力が対策を約束し始めている。
筆者自身も、2011年東日本大震災に際して生じた大規模なデマ情報の流布に対して、東北大学准教授岡崎直観氏らによる、震災後1週間のソーシャルメディアTwitterのツィートを分析した「震災ビッグデータワークショップ」研究などに触れ、ソーシャルメディア内部に誤謬を正す対抗力があることを活用したファクトチェック手法があり得ることを提唱した(朝日新聞刊「ジャーナリズム」2015年3月号「スマートニュースから読み解く ネット時代の新聞メディアの課題」)。
改めて言えば、最新のメディアトレンドが、今回の大統領選の“望ましくない”結果を生んだのだといったナイーブな言説は控えるとしても、現代のメディアがカネとプロパガンダの狭間で容易にモラルハザードに陥るワナに直面していることは、強調しすぎることはない。
テクノロジーにはテクノロジーで、そして、倫理の停滞には新たな倫理で対抗していく必要があるのだ。
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「スマートニュースから読み解く ネット時代の新聞メディアの課題」