部分的な「最適化」を超えた、全体の「最大化」の地図を描きたい
磯部:本日最後のテーマです。「これからマーケターは何を目指すか」。國田さん、いかがですか?
國田:「無駄をなくすこと」ですね。それは最適化や効率化とは違います。この間、ある商品のサンプリングで2日間、朝から晩まで繁華街に立って人に声をかけるということをしたんですが、皆さんそう簡単には受け取ってくれない。こんなに歩留まりが低いものかと改めて思いました。でも、トラフィックがあるので、最終的に積み上げるとそこそこの数になる。ああ、これがマスマーケティングなんだなとよくわかったんです。
ネット広告でも、クリック率が0.1%あればいいと言いますよね。つまり、僕らのビジネスは、0.1%の成功のために99.9%の無駄をよしとしているビジネスなんです。でも、今後あらゆるビジネスはエコに向かう。人のエネルギーを最小化して、リターンが最大化するように動いていくと考えると、マスマーケティングはまだ未熟です。無駄をなくすのに大事なのは予測精度です。「こうしたら人が動く」というセオリーを持って、そのやり方を洗練させて、美しい数式のように無駄を減らすソリューションになっていくんじゃないか。そこに至りたいと思っています。
磯部:それは最適化とは違うんですか?
國田:「最適化」と言うと、今は細かい話を指すことが多くて、大きく人を動かす戦略にはなりづらい。そうすると、ただの部品になってしまいます。部品をつなげるところにこそ、アイデアが必要です。それがクリエイティブだと思います。
磯部:最適化はつまらないと僕も思います。やはりマーケターたるもの、最大化を目指そうぜと。最適化はAIに任せて、マーケットの伸びしろや新しいチャンス、潜在的なお客さんを顕在化させるアイデアを考えるのが、僕らに残された仕事ですよね。
僕は、これからは時間やお金を自己肯定や自己実現にかける時代になるだろうと感じています。つまり、『「自己肯定/自己実現」を買う』という購買行動に向かうということです。コトラーもマーケティング4.0として「自己実現のためのマーケティング」を提唱していますよね。
労働の大部分を機械がするような時代になった時、働かなくてもよくなった僕らは何を求めるのか。やっぱり働きたいと思うのではないでしょうか。先ほど、シニアは働きたいという話がありましたが、それはお金を得るためだけではないと思うんです。社会の中で役立つ自分であることに意味がある。だから働きたいのだと思います。これからは、自己肯定や自己実現が、消費や時間消費の対象として重要になると感じています。
國田:マーケティングが一番効いたのは、不足の時代でした。不足が無くなると、マーケターは不安を生み出すことでマーケットを作った。コトラーは、不安さえも飽和すると考えたのではないでしょうか。生活者に知恵がついて、見せかけの不安にだまされなくなり、不安を克服できる社会が近々やってくる。
そうなると、最後のフロンティアは自己実現になる。コトラーのマーケティング3.0のような、エシカルな社会では、人間の欲望は、不満でも不足でもなく、自己実現になると読み解き、マーケティング4.0を自己実現としたのではないかと解釈しています。本当のところはわかりませんけどね。
磯部:これからマーケティングはどこへ行くのか、今日はヒントを沢山いただきました。どうもありがとうございました。
國田圭作(くにた・けいさく)
博報堂行動デザイン研究所所長。
1959年生まれ、1982年東京大学文学部卒業後、博報堂に入社。以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。2013年より現職。大手ビールメーカー、大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのブランドマーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを手掛ける。2006年に行われた第53回カンヌ国際広告祭の部門賞(プロモライオン)で審査員を務める。
磯部光毅(いそべ・こおき)
磯部光毅事務所 アカウントプラナー。
1972年生まれ。1997年慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、制作局を経て2007年独立。主な仕事にサントリー「JIM BEAM」「ザ・プレミアム・モルツ」「伊右衛門」「伊右衛門特茶」、トヨタ自動車「G’s」、ダイハツ「タント」、コーセー、KDDI、Google、味の素、AGF、花王、ティファニー、ブリヂストン、三井不動産、カルビーなど。ブランドコミュニケーション戦略を核に、事業戦略、商品開発からエグゼキューション開発まで統合的にプランニングすることを得意とする。受賞歴にニューヨークフェスティバルAME賞グランプリなど。著書に『手書きの戦略論 「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』(宣伝会議)、『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』(共著、宣伝会議刊)などがある。