人口減少は、日本企業にとってピンチでもあるがチャンスにもなる

■ネスカフェアンバサダーによるオフィス市場への参入

前述の問題と並行してネスレ日本が取り組んだのがオフィス市場への参入です。

ネスレ日本はもともと家庭向けコーヒー市場では非常に強い存在でしたが、オフィス市場では弱かったそうです。ただ、人口減少により家庭市場は縮小することが明確です。

そこで、ネスレ日本が挑戦したのがネスカフェアンバサダーにより、オフィスでも家庭同様に低コストでコーヒーを楽しめる手段を提供するという、新しいビジネスモデルへの挑戦でした。

こちらについては、アドタイに詳細のインタビュー記事も掲載されていますので、そちらをご覧ください。
 
参考:人に喜んでもらうことがビジネスモデルになった(ネスカフェ アンバサダー)

■キットカットショコラトリーによるブランドイメージの刷新

また、人口減少や高齢化は、キットカットのような低単価のチョコレートの市場が縮小していくことも意味します。

ただ、ネスレ日本ではデフレが問題視される日本市場においても、ショコラティエによる高価なチョコレートが売れている事実に注目しました。実はチョコレート市場においても、低単価なチョコレートと高価なチョコレートの二極化が進んでいたのです。

そこで、ネスレ日本が取り組んだのが、著名なパティシエである高木康政氏とコラボレーションしたキットカットの専門店としての「キットカット ショコラトリー」の展開でした。

このキットカットショコラトリーは、価格帯を一般のキットカットの20倍に設定。キットカットというナショナルブランドにおけるクラフトマンシップの存在をアピールすることに注力し、キットカットのブランドイメージを拡げることに成功したわけです。

これらの取り組みにより、ネスレ日本はネスレグループの先進国における平均成長率の倍以上の成長を達成することができ、ネスレグループの中では「ジャパンミラクル」と呼ばれているそうです。

このネスレ日本の事例から我々が学ぶべきことは、ネスレ日本の高岡社長をはじめとした社員の方々が「日本の新しい現実」を直視し、市場の縮小をピンチと捉えるのではなく、市場が変化するチャンスと捉えた点です。

もちろん、ネスレ日本のようなグローバル企業における日本法人にとっては、日本市場こそが直面すべき唯一の市場のため、他の日本企業のように海外展開に注力することで、日本市場の問題から目を背けるという選択肢がないことが、前述の逆転の発想につながっている面もあるようです。

ただ、同じ逆転の発想で考えれば、日本企業も日本市場を減少する市場と捉えるのではなく、変化している市場と捉えて、新しいビジネスチャンスを発見することができるはずです。

ネスレ日本には既に世界のネスレグループから、こうした成功事例を学びたいという相談が引く手あまたの状態になっているとのこと。

つまり、世界に先んじて高齢化や人口減少に直面している日本において、その変化を先取りした新しいビジネスモデルを確立することができれば、それを世界の国々に展開していくことができる可能性も見えてくると言えます。

このネスレ日本の事例を聞くと、外資系企業は経営トップの発想が進んでて良いな、と思ってしまう人も多いかもしれませんが、こうした顧客視点で顧客の抱えている問題を再定義し、新しい市場を作ろうとする行為こそが本来「マーケティング」の役割だと言えます。

高岡社長は、日本のバブル前の成長の源は、あくまで勤勉な労働力を安いコストで活用することができていたことにあったのに、バブル後にその状況が大きく変わったことを無視して、本質的なマーケティングを学ぼうという姿勢が日本になかったことが、現在の日本企業の苦境を作っているのではないか、と問題提起されていました。

そういう意味では、マーケティング視点で日本の人口減少を顧客の問題の変化と捉え、日本の人口減少をピンチと捉えずにチャンスと捉えることができるかどうかは、今後の日本企業のマーケティング部門にとっても重要なテーマになるのではないでしょうか。

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徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク 取締役 CMO ブロガー)
徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク 取締役 CMO ブロガー)

徳力基彦(とくりき・もとひこ)NTT等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。

徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク 取締役 CMO ブロガー)

徳力基彦(とくりき・もとひこ)NTT等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。

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