革新的なブランドはどうすれば生まれるのか― 獺祭×スープストックトーキョー社長対談

社員のモチベーションを高めるのはお客さまのブランドへの共感

—今年の宣伝会議サミットでは「その活動は顧客のエンパシー(共感)を創造するか?」と問いかけていますが、桜井会長も一時期、顧客の共感を得るためご苦労されたのでは?

桜井:ええ。共感というより売るために値引きをしたり、景品をつけたり色々と施策を打ちました。でも思うように効果は出なかったですね。そんなことをしてもお客さまは幸せではないのです。お客さまの幸せは、美味しいものを納得した価格で飲むことだった。でもそれを絶対理解していただけない方もいる。そうした方に対しても無理に「それでも飲んで」と、押し付ける必要はない。その方は求めるお酒を選べばいいので、私らは共感いただける方に飲んでもらえればいいのです。

松尾:私は実は事業本部長時代、売上にとっても厳しかったのです(笑)。でも社長になって売上って何だろうと考えた時に、売上はお客さまの共感を表した票、支持の表明のようなものだと気づいたのです。スープストックトーキョーに来店して、メニューやサービス、居心地に共感してもらい、足繁く通うリピーターになっていただき、その結果が売上になって表れる。だから最低前年対比130%を目指せと発破をかけるより、瞬間、瞬間の仕事がお客さまの共感を得られる仕事になっているかを、各々が自覚するよう提唱しています。

桜井:共感といえば、獺祭のフランス進出を計画していたとき、業界の色々な人が助言をくれました。フランスはワインの国ですから、日本酒の美味しさは、ワインと比べて子どもじみた味に思われる、もっと角があったほうが良いなど。けれどもそれは違うな、と。ワインはワイン、獺祭は獺祭。私らは獺祭の美味しさだけ追求すれば良くて、その追求した味に共感、共鳴してくれた人と何かできれば良いと感じていました。

するとそのうち世界的なフランス料理シェフのジョエル・ロブション氏から、今の獺祭と一緒にやりたいという話があり、来年共同出資でパリに出店することが決まりました。共感を得られたひとつの象徴的な例 だと思います。

松尾:私どもの会社でも今年、ある象徴的なことがありました。営業担当のエリアマネージャーを企画やプロモーションに参加させようと、自分が社長だと思って、どうやってお客さまとの共感をつくるか考えてみなさいと指示しました。

それである営業は、友人や家族にスープストックトーキョーについての感想や注文を聞いて回ったようなのですが、そこでほとんどの人が当店でカレーが食べられることを知らなかったことに驚き愕然としたと。それでスープストックトーキョーは多種の美味しいカレーを提供していることを何としても知らせたいと言ったのです。その提案から全社一丸となって「2016.6.10スープのない1日Curry Stock Tokyo」を実現しました。全店大行列ができました。

一人の「想い」がこもった提案に社員と1400名のアルバイトが共感し、この行列を成し遂げたのです。その日、お客さまが何か黄色のものをご持参されたら、大盛りにするなどサービスをすることも告知したら、大勢の方がご持参くださって、各店で店のスタッフのモチベーションが一気に上がりました。やはりお客さまの共感、アクションほどモチベーションを上げるものはないなと実感しました。

桜井:よく分かります。私どもは製造業なので、直接酒づくりの従業員がお客さまと接触するというのは、工場見学くらいなのですが、まあ従業員は無愛想。挨拶くらいしなさいと言っても言うことを聞かない(笑)。ところがお客さまのほうから「獺祭おいしいよ」「製造おつかれさま」などとお声掛けくださって、ある時期から従業員側から挨拶するようになったんですね。「社長、あんたのとこの工場の人から笑顔で挨拶してもらって、アレ気持ちいいなあ」と言われました。それは我々の教育でできたのではなく、お客さまが社員を育ててくれたのですね。

次ページ 「経営者は育てるのではなく自分で育つもの」へ続く

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