<「原稿執筆」の極意とは?「執筆」編はこちら>
書き手は、最初と最後の一文にすべてをかけよ
編集者は最初の読者であり、コンテンツのアンカーマン
編集者はコンテンツ(記事)をつくる上で、どのように原稿を「編集」すればいいのでしょうか。これはおそらく、100人の編集者に聞けば100種類のノウハウが出てくるくらい、その編集者による独自論がありそうです。ここで書かれていることは必ずしも一般論ではなく、あくまで一編集者の目線としてご一読ください。
それではまず、大枠の話から。原稿を書く人はどんな人でしょうか? 小説家やコラムニスト、ノンフィクション作家、職業ライターなど、さまざまな仕事の流儀を持つ書き手がいます。書き手が誰であれ、その原稿には必ず「読者に伝えたいこと」が記されています。これがない原稿は、コンテンツとして意味を成しません。
ブログのような個人メディアであれば、書き手が「投稿」ボタンを押した瞬間、読者にそのコンテンツが届きます。しかし、書籍や雑誌、Webメディアなどの場合は、作家やライターの原稿をそのまま掲載することはほぼありません。
「原稿」は必ず編集者の手を介して「記事」になります。つまり、編集者は書き手にとって最初の読者であり、責任をもってその先にいる読者により伝わりやすいコンテンツを提供するアンカーマンでもあるのです(※企画、取材、編集といった一連のプロセス全体をディレクションする仕事ですので、トータルで見ると編集者は「コンダクター」であるともいえます)。
書き手から上がってきた原稿が手元に届いたとき、編集者は何をどう“編集”するのでしょうか。以下、大きく分けて4つのポイントを挙げて解説してみましょう。これらはまず1点だけを集中的にチェックすることもありますし、同時並行で見ることもあります。また、一人ではなく複数の編集者が回し読みすることもあれば、校閲者(校正者)の目を通すこともあります。プロセスや工程は、企業や編集部によって異なります。
1、見極めるべきは、何を伝えたい原稿なのか
原稿の本質、あるいは「核」とでもいうべきポイントを押さえているかどうかをまず確認します。長編小説やノンフィクション作品であれば、読後に感動はあるのか。ニュース記事であれば、この原稿の何がニュースなのか。エッセイであれば、この原稿のなかで作者はどんな主張をしたかったのか。それぞれの原稿において読者に「伝えたいこと」は何か、その伝えたいことの真ん中にあるものは何か。手元に届いた原稿を最初に読むときは、まずこの“主旋律”を確かめます。
「伝えたいこと」が不明確な原稿は、残念ながら失敗作です。整合性を欠いていたり、矛盾していたり、支離滅裂だったり。最初の読者として「何を書いているのかよくわからない」という感想を持つようであれば、根本的な修正を施さなければいけません。プロのライターの世界で、そこまでひどい原稿にお目にかかるようなことはめったにありませんが、新人ライターを起用する場合は特に気をつけましょう。
そもそも編集者の仕事は、単に原稿をチェックするだけではありません。とくに作家性を必要としない原稿を依頼する場合は、企画段階で仮タイトルを設定し、どういう方向性の記事に仕上げるのかを想定します。そして、それに沿った原稿に仕上がっているのか、あるいは取材によってさらに深みのある原稿になっているのか。できるだけ後者の要素が多く盛り込まれていることを期待しながら、原稿を読み進めます。
残念ながら「核」のない原稿、あるいはぶれてしまっている原稿であると判断した場合は、具体的に何が足りないのかを朱字で示し、ライターに戻します。このとき、できるだけ「この部分を核に据えて、こういう構成で書き直すと良いのでは?」というアドバイスを添えるのがポイントです。
2、差別表現や誹謗中傷、事実関係のチェック
コンテンツをつくる上で、「表現の自由」「報道の自由」「知る権利」は、情報発信者側が持つ最大の武器でしょう。しかしながら、特定の人を貶めたり傷つけたりする用語・表現は、その権利を逸脱するものです。たとえ大御所作家の原稿であっても、必然性のない差別表現や誹謗中傷があった場合、編集者はその掲載にストップをかけなければいけません。
何が差別表現で、何が誹謗中傷なのか。前者については具体的なキーワードをここに記すわけにはいきませんが、身分や人種、職業、障害者、性にかかわるワードのなかに「不適切な言葉」があります。これは法に定められているわけではなく、報道の歴史が蓄積してきた「自粛」ワードといえるでしょう。具体的なワードについては、例えば『記者ハンドブック 新聞用字用語集』(共同通信社)のような本を基準にして、編集者(編集部)が判断します。
誹謗中傷は、「誹謗」(他人を悪く言うこと。そしること)と「中傷」(根拠もないのに、他人の名誉を傷つけること)がワンセットになった言葉です。根拠もなく他人を陥れることで名誉を傷つけるような原稿は、当然ながら編集者がしっかりストップしなければなりません。相手方から訴訟を起こされると、名誉毀損や業務妨害などの罪に問われることがあるからです。また、明確な根拠があって公表した内容が事実であっても、それが公共の利害に関係していなければ名誉毀損に該当します。それを覚悟の上で掲載するのか否か、デスクや編集長の判断も含めて決定します。
さらに見逃してはいけないのが、事実誤認の有無。取材に基づいた原稿であっても、それが100%正しいとは限りません。
図「事実かどうか不明瞭な文章例」
「ん?この内容は本当に正しいのか?」「この数字は矛盾していない?」「この固有名詞は間違えている気が……」といった具合に、自身の知識を総動員した上で違和感を覚えたら、その真偽をできるだけ調べて正します。場合によっては、原稿そのものがどこかのWebサイトや書籍などのコピペではないのかといった確認をすることもあります。
なお、一人の編集者によるチェックだけではこれらの要素を見逃してしまう可能性があります。複数の編集者の目を通したり校閲チェックを入れたりすることで、より精度の高い記事をつくり上げていくことができます。
・・・「原稿そのものの質を高める作業で意識すべきこと」「読者の“目を引く仕掛け”の工夫」など、残り2つのポイントの続きは『編集会議』をご覧ください。
※本記事は『編集会議』に収録されている記事の一部です。本誌では本記事(「編集」編)の他に「企画」「取材」「執筆」「分析」の切り口から、売れる“良いコンテンツ”のつくり方について、プロの方々がノウハウを公開しています。
編集者/ライター
宮脇 淳 氏
1973年3月生まれ。有限会社ノオト代表取締役。雑誌やフリーランス編集者を経て、「R25」の創刊編集者の一人に。現在は、企業メディアの企画・編集に携わる。品川経済新聞編集長やコワーキングスペース「CONTENTZ」管理人としても活動中。
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