日本テレビ系列で放映されている「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」。発売中の『編集会議』では、原作者の宮木あや子さんのインタビュー記事を掲載している。視聴率も絶好調なドラマの原作はどのようにして生まれたのか。
日本テレビ系にて12月7日(水)夜10時から最終回放送!
校閲は指摘の仕方にも人柄が出る
—10月よりついに著書『校閲ガール』が実写ドラマ化されました。そもそも校閲という職業をテーマに小説を書こうと思ったきっかけは何だったんですか。
最初のきっかけは、「本にまつわる短編を書いてほしい」という依頼を受けたんです。『本をめぐる物語』というテーマで、号ごとにさまざまな作家さんが小説を寄稿している、雑誌『ダ・ヴィンチ』の企画でした。だから当初は1話だけで完結するはずだったんですが、そのころちょうど書籍まわりの『○○ガール』という作品が売れていたので、どうせなら私もその市場に参入したいなと思って(笑)。
とはいえ、編集者の物語はマンガやドラマでもさんざん描かれているし、書店員モノもすでにたくさんあった。ほかに何かないかなと考えたときに思いついたのが、校閲の仕事でした。私も小説家デビューするまではその存在を知らなかったくらいなので、新鮮なテーマになるんじゃないかなと。
校閲って、指摘の仕方にも人柄が出るんですよ。ものすごく細かく指摘はしてくれるけど字が汚くて読めない人とか、個人的な意見が多い人とか。会ったこともないのに、その文字や内容でなんとなく顔が見えてくるような気がするのが、面白いなとも思っていたので。
—それで生まれたのが河野悦子というキャラクターなんですね。ファッション誌の編集者になることに、憧れ以上の執念を燃やすおしゃれな女の子。思ったことをそのまま口にする彼女の性格は、ときに毒舌すぎることもありますが、読んでいて非常に気持ちがいいです。
現実であんな言動をしていたら大問題になるでしょうけど(笑)。校閲部でいやいや働くのはどんな女の子だろうと考えたとき、おしゃれな子がいいんじゃないかと思いつきました。私自身、悦子と同じように衣食住の衣にしか興味がなく、ファッションのことなら取材しなくても書けますし。洋服を買うために仕事をしていると言い切るところと、彼女のファッションへの愛は、私と重なるところがありますね。
たぶん悦子は優秀な校閲者
—はじめて校閲の存在を知ったときは、どんな印象を抱きましたか。
単純にありがたかったです。こんなことをしてくれる人がいるんだ!と。私のデビュー作は『花宵道中』という江戸時代の吉原が舞台の連作短編集だったんですが、とりたてて日本史や文化に詳しかったわけでも好きだったわけでもなかったので、歴史考証には不安がありました。だから余計に、専門家の方にチェックしていただけるということが心強くて。同時に、校閲の方がいてくれるなら歴史小説を書いても大丈夫だという安心につながり、その後も何作品か書くことができました。
—平安王朝が舞台の『泥ぞつもりて』や、明智光秀の娘が主人公の『ガラシャ』は、校閲の存在がなければ生まれていなかったかもしれないんですね。
そう思います。ある意味で、私の可能性を広げてくれた存在。私は自分の脳をまったく信頼していないので、当然間違えるものだと思っています。だから、粗探し上等、どんどんしてください!という気持ちで原稿をお預けしています。
—これまで受けた指摘で印象に残っているものはありますか。
『白蝶花』のときの校閲さんは、舞台となる屋敷の間取り図をつくってくれたんですよね。「こういう形の屋敷なら車寄せはここにあるはず」とか「雨と書いてあるけど○年前のこの日は晴れだったはず」とか、とにかく指摘が細かく正確な方で。聞いたらその方は、定年後も仕事の依頼がくるほど、新潮社では伝説の校閲者だったそうです。
私はデビュー作からその方に担当していただいていたので、他社でお仕事をすることになったときは不安で仕方がなかったくらい、頼りにしていました。別の方だと、『雨の塔』のときにいただいた指摘はちょっと笑ったな。三島財閥という架空の財閥を登場させたんですが、「実在しませんが、ゲームの鉄拳シリーズに登場します。あまりに雰囲気が違いますがどうしますか」って(笑)。読者層はかぶらないだろうからまあいいか、とそのままにしましたけど。
—ちょっとした小ネタのような知識も、校閲する際の役に立つことがあると。
校閲にいちばん必要なのは、物知りであることだと私は思います。それから、調べることが苦にならない人。重箱の隅っこが大好きで、むしろ重箱の隅に住みたいと思っているような人に、私は原稿を預けたい。そういう意味で、たぶん悦子は優秀な校閲者。記憶力がよく、細かいところに気がつくうえ、気になったらとことん調べるし。実際にいたら、私の原稿も校閲してみてほしいですね。
小説ってお金を払って読んでもらう以上、その内容は対価に見合うものでなくてはならないし、読者が求めているものに応えなくてはならない。出版される前のゲラチェックも、できるだけ時間をかけて入念に行いますね。
そしてそのためにも、校閲者は絶対不可欠な存在です。Web媒体などの、無料で読めるコンテンツにはお金をかけて校閲を入れるのが難しいかもしれないけれど、有料であるものには、自分の作品だけでなく、できるだけチェックの目を厳しくしてほしいと思っています。私自身、お金を払うからには精度の高い文章を読みたいですしね。
・・・「やっぱり校閲という仕事は考えられないくらい地味!?」「原作を書くときに決めていたこととは?」など、続きは『編集会議 2016年秋号』をご覧ください。※本記事は誌面に収録している記事の一部です。
小説家
宮木あや子氏
2006年、『花宵道中』で第5回「女による女のためのR-18文学賞」大賞と読者賞をW受賞しデビュー。著書に、『雨の塔』『群青』『泥(こひ)ぞつもりて』『野良女』『憧憬☆カトマンズ』『学園大奥』『校閲ガール』など。震災復興支援を目的とした女性作家たちの同人誌『文芸あねもね』に参加。2013年、『セレモニー黒真珠』で第9回酒飲み書店員大賞を受賞。『花宵道中』は、安達祐実主演で映画化され、2014年に公開された。
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