マス広告、デジタルマーケティング双方の経験を持つ横山氏は、かねてより「マス」「リアル」「ネット」のすべての領域をデジタルデータで統合したマーケティングの未来を提言してきた。1億を超えるという楽天のビッグデータは、広告の本流にデジタルを取り込むうえで、どう生かされるのだろうか。
どれだけ投下量を増やしても、リーチできない若年層
—横山さんは「マス」「リアル」「ネット」の融合が必要だと指摘されてきました。
横山:企業においてマス広告を担当する人たちとデジタルの部門が分離していることに問題意識を抱いています。デジタルを強化しようと、専門組織をつくったばかりに、逆に孤立してしまい、融合が進まないケースも少なくありません。
しかし広告の本流にデジタルを取り込まなければ、日本企業のマーケティングは変わらない。僕は広告会社時代に、マス広告を15年ほど担当していたので、ここ数年、マス広告を担当している人たちが、どうすればデジタルを取り込んでいけるかに向き合ってきました。
濱野:マス広告を担当する方たちがデジタルを取り込む支援の活動のひとつが、「CMARC」ですよね。
横山:広告効果の指標として認知や態度変容などもありますが、まずはシンプルに「リーチ」という尺度でテレビCMとネット広告の指標を統合して把握できるようにしました。ネット広告のモデルは、あまりに複雑になってしまい、マス広告を担当している広告主からするとわかりづらい。ですから、わかりやすさを重視しました。
テレビ視聴状況を分析すると多くのケースでそうなのですが、人口の多い高齢者のテレビ視聴時間は長く、人口が少ない若年層は短く、二極分化してしまっている状況があります。自ずとテレビCMのフリークエンシーも1もしくは0という若年層、20回以上になる高齢者と二極分化しています。
この状況では、どれだけ若年層のCM接触を増やそうと、GRPを増やしたところで、もはや届かない。ターゲットリーチを補完するためには、ネット広告を組み合わせるべきなのです。
「CMARC」概念図
属性情報が正確な、1億IDを超える楽天のビッグデータ
濱野:横山さんとは20年来のお付き合いですが、私が広告ビジネスではなくメディアづくりに関わっている時期が7年ほどあり、戻ってきたときには横山さんの著書を読み漁りました。そこで1億以上の正確なデモグラフィックデータと紐づくIDを保有している楽天が企業のマーケティング活動を支援できる可能性があるのではないか、と考えるようになりました。
横山:楽天はECメディアのイメージが強く、広告主からするとダイレクトマーケティングにしか活用できないと思われているのではないでしょうか。ただ、僕が思う楽天が持つデータの最大のメリットは1億を超えるID。デジタルでテレビのリーチの補完をしようと考えたら、これくらいの規模感がないと無理ですよね。
CMARC×楽天DSPで実現する、新しい世界
—「CMARC」×楽天DSPの成功事例も出ていると聞きます。
横山:ある企業で約600GRPのテレビCM出稿の補完として、ネット広告を1500万インプレッション配信しました[図表1]。このネット広告配信ではテレビCMに1回も接触していない新規のターゲットリーチを関東の人口換算で10%程度獲得できました。これだけのリーチをテレビCMで実現しようとすると、3000万~4000万円程度の広告費が追加で必要になり、広告予算を効率的に使いながら、目標を実現することができたと考えています。
メディアプランも投下予算もあらかじめ決めて、その通りに出稿する企業がほとんどですが、別に予算のすべてを使い切らなくても、目標に到達すればよいわけですよね。経営者からしても既定の予算を使い切らずに、目標を実現できれば、浮いた予算で広告部門に新しい挑戦をさせようと考えるのではないでしょうか。
「CMARC」を通じて、事前にすべてを決め込んで活動する現代の広告活動を、よりリアルタイムに柔軟な体制に変えていける支援もできればと考えています。
濱野:以前は、リアルタイムに近い形で広告の効果を把握できなかったので仕方がなかったとは思います。でも、せっかくデータがとれるようになった状況なのですから、もっと柔軟に変えていったほうが良いですよね。
楽天DSP:
DSPとは、代理店や広告主がターゲティングや価格、フリークエンシーなど、広告枠購入をコントロールする条件を設定し、バナー広告の配信を行うことができるプラットフォーム。楽天DSPでは、楽天市場や楽天グループの各サービスにおける、個人を特定しない購買や閲覧の分析データを活用してターゲティング配信が可能になっている。
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