今、広告業界に共通する課題とは?
笠松:僕は会社とか一つのビジネスモデルの寿命って、人間の寿命と同じくらいだと思っているんです。一つの事業は、だいたい60~65年くらいで定年を迎える。これが、自然の摂理なんじゃないか、と。
広告業界で言えば電通の吉田秀雄さんがつくった、テレビというメディアが登場してから完成した素晴らしいビジネスモデルは、一つのピークを過ぎている。これ以上、オーガニックでの成長は期待できない。いずれにしても、そろそろ一回定年を迎えなきゃいけない時期。今、ちょうどその過渡期に来ていると思います。
2016年に業界内でいろいろなニュースがありましたが、さまざまなことの根っこにあるものの一つが、この点ではないかと考えています。
中川:メディアという点においては、今や人気YouTuberなどの出現で、広告会社が個人に負けることもある時代。それが、笠松さんが言うところの「寿命がきた」ってことになるんじゃないかと。
不思議なのは、新しく登場したIT企業も、実はビジネスモデルにおいては、旧来のマス広告のスタイルを踏襲していることです。メディアをつくりましたよ、アプリをつくりましたよ、ここに乗っかりませんかって。話題になって、ダウンロードされて、でもこれって最初に始めたメディアしか儲からない仕組みですよね。
マス広告の時代ってメディアが有限だったから、枠売りのビジネスが成立したのだけど、メディアが無限に広がる時代に同じことをしようとしても、難しいと思います。
広告はもっとプロ集団になるべき
笠松:一つの考え方として、吉田秀雄さんがつくったビジネスモデルは、ざっくり言うとメディアという有限な資産を売り買いするプラットフォームビジネスだったと思うんです。
広告会社はメディアの隣にいて、メディアとともに繁栄する。それがネット、SNSを中心にいろんなデジタルプラットフォームが登場したことによって、ある日を境にメディア業界の構図が変わった。だから、メディアの隣にいた広告会社はもちろんのこと、広告主、メディアも、全員考え方を変えなければならない。お互いの役割、契約スタイル、もっと言えば報酬体系も変えなければいけない。
広告会社がメディアコミッションに依拠した報酬体系を見直すには、それぞれの仕事の適切性について判断が求められるし、広告会社で働く一人ひとりの仕事内容がより可視化されていくはず。
そこで、僕が極論として思っているのが、広告会社は“プロ野球チーム化”すべきということ。社長が監督で、報酬が1億円だとする。でも、会社の中には2億円プレーヤーもいる。一方で、普通の人は数百万円だし、ファームの人はそれ以下。活躍している間はその報酬がもらえ、活躍できなくなったら「よく頑張ったね」と言われながら引退していく。そういう、プロの集団になったほうがいいんじゃないかと。
それともう一つ、ある課題を解決するのに適切なプレーヤーが違う会社から集まってチームをつくり、終わったら得意先から適正な報酬をもらって、それを配分し、解散。これが僕の考える理想です。
中川:僕が1997年に広告会社に入った時、10年後、つまり2007年に当時在籍していたCC局がどうなっているべきか考えろというテーマが出されたんです。そのとき僕は、「部長がやたらといっぱいいる」って書いたんですよ。一人ひとりの社員が何か一つすごい詳しい分野を持っているという前提の下、その分野のPRをする部長になると。
「僕はNBAが詳しいのでNBA部長になります」って言ったんですけれど、もしかしたら、そのアイデアが笠松さんの言う、プロ野球チーム化に近いかもしれないですね。
笠松:そうですね。でもこれって、プロやスペシャリスト以外の人はどんどん淘汰され、幸せになれない人もたくさん出てきてしまう。本当にそれでいいのかっていう質問には、今は答えられないけれど。あくまでも理想としては、プロの集団のほうが望ましくて、どこにいるかよりもどうやって集まれるのかっていうほうが大事で、そうなると、人事制度も仕事の受け方も発注の仕方も、全部変わっていかなければいけない。
だから極論なんだけど、こうすると傍目にも、この業界の人はすごく淘汰されているということが分かる。憧れるというよりも、頑張らなきゃいけない、覚悟をもって入りたい業界ということになると思うんです。そうすると、変な妬みはなくなるんじゃないかと。
良くも悪くも、「あの人たちはまっとうな努力をしていないのではないか?」という広告業界に張り付いた世間の印象が、プロ化が進むことで、少なくとも緩和はされるかなとも思います。
本記事は、『宣伝会議』2017年1月号 特別企画「日本の未来と共生できる広告・広告界」の記事を転載したものです。その他の2017年の広告界を予測する記事については本誌をご覧ください。