誕生日にプロモーションメールが届いた
福井さんは小林製薬のECサイトを担当されています。以前は割引きキャンペーン施策を中心に売上をあげることに注力していましたが、2014年からむやみな割引きに頼らずに丁寧に製品の情報を顧客に伝えていく形に方針転換されています。
もちろん、一時的な売上減少はあったそうですが、そこを辛抱して続けたことで、今では値引きに頼っていた時期よりも、売上を上げることができたという成功体験を持っています。
そうした方針転換の延長で福井さんがある日、問題意識を感じたのが、あるECサイトから誕生日に送られてきたメール。
「お誕生日おめでとうございます。ささやかなバースデープレゼントをご用意しました。」
そのメッセージの最後に小さく注記として書かれていたのは「7000円以上ご購入いただいたお客様へプレゼント」という文字。このメッセージにガッカリした福井さんですが、自社でも似たようなことを実施していたことに気がついて愕然としたそうです。
「お誕生日おめでとう、これ買って」は、友達に対しては絶対に言わない発言ですし、言われた人はきっと嬉しくないはず。
ただ難しいのは、実はこのメールはコンバージョンだけを考えると、とても成果が出る手法であったという点だそうです。“誕生日の今日だからこそ、限定のオファーが届いた”ということは、メールを受け取った側もメリットを感じることが多いでしょう。
ここで注目すべきなのは、コンバージョン率の高さの反対側にあるガッカリした人たちの存在です。仮に誕生日の売り込みメールでコンバージョン率が10%だったとしても、もし残りの90%がガッカリしていたら、この誕生日メールは一時的な売上をあげるために、他のお客さまを逃すことにはなっていないのか。
この視点を持つことができるかどうかが、「ファンに愛され続けるコンテンツ制作」をできるかどうかのポイントになるのではないか、当日はそんな議論がされました。
福井さんによると、日本のECサイトでも、誕生日メールとして本当に受け取って嬉しくなるような内容を送ってくる企業もいるそうで、自社でもそんな取り組みができないか模索されている最中だそうです。
福井さんが誕生日メールへの違和感を“自分ごと”として感じることができたのは、小林製薬のECサイトが割引きキャンペーンへの依存から脱却していたことも大きいでしょう。
新規顧客向けの値引きセールを乱発することで、定価で購入しているファンがガッカリして、二度と定価で購入しなくなったら、割引きセールは「ファンに愛される施策」とは、とても言えないわけです。
そういう意味で、実は「ファンに愛され“続ける”コンテンツ制作」というのは、短期的な売上をあげるための手法や、新規顧客を効率的に獲得する手法とは、実は真逆の価値観にある、ということが見えてきます。
現在は、既存のファンの「感動」も「ガッカリ」もソーシャルメディアを通じて周りの人に届いてしまう時代です。
企業が新規顧客と既存顧客の重要度をどうバランスを取っていくのかが、ますます重要なテーマになってきている気がします。