「プロデュース」とは、作家の内部にあるものを引き出すこと
佐渡島:いいマンガ家は全部違うキャラクターをつくれますね。マンガ家のクリエイターズクリエイターとして有名なのが新井英樹さん。『キーチ!!』や『宮本から君へ』を描いてる人ですね。すごいと思うのは教室のシーンがあるとすると、そこに座っている生徒の全員の座り方が違うんですね。着ている服も違います。
だから、編集者が新井さんに「この人はどんな性格ですか?」と聞くと、全部答えられると思いますよ。井上雄彦さんや浦沢直樹さん、安野モヨコさん、小山宙哉さんなどは、作品に登場する人が全部キャラクター立ってますよね。
だから、売れるものになるかどうかは別として、「出てくる人全部で短篇をつくろう。4ページマンガを描こう」といったら、描ける感じの登場人物だけが集まってくるんですよ。
澤本:なるほど。じゃあスピンオフをつくろうと思ったら簡単につくれるんだ。
佐渡島:いくらでもできちゃいますね。それに対して、他の作家はキャラクターがどうしても似ちゃったりして。
澤本:でも、主人公のキャラクターが決まって、サブの人がこういうキャラがいいんじゃないかと考えるときに、それが良いか悪いかという客観的な判断をされるわけですよね?
佐渡島:そうですね。そこはこのキャラクターにはこういうキャラクターをぶつけたほうが物語が動きやすいなど、そういうのはありますね。基本的に、主人公が全部を語ると面白くないというか、いきなり「俺は誰よりもバスケがうまい」と言ったときに、それが本当なのか、この主人公が勘違い野郎なのか、読者は検討しなければいけませんよね。
そのとき、「主人公がどんな人間か」ということは他人しか説明できないんです。だから、主人公のそばに色々なことを解説的にしゃべっても違和感のないキャラクターを置くことが重要なんです。
澤本:解説役のキャラクターを置くと。
佐渡島:解説的だと思われちゃうと物語が面白くなくなるので、分析的でいてもいいキャラを置いておく。それは物語の定番として絶対に重要ですね。物語というのは必ず主人公AがAダッシュになるという話なんです。「何か」があって変わるわけですが、それが事件なのか、人との関係性なのか、色々ありますけど。
だから、そこでぶつけるキャラクターが必要になってくるんです。どういうタイプの成長譚が好きかというのは、作家の経験に根差しているものがあるので、作家に「どういうときに自分の心がワクワクするか?」と聞きながら、物語をつくっていきます。
澤本:じゃあ佐渡島さんがされるプロデュースは、作家の内部にあるものを引き出す作業をするということ?
佐渡島:そうです。
澤本:作家の話し相手という感じですか?
佐渡島:そうですね。先ほど、「面白いキャラクター=記憶に残るキャラクター」と言いましたが、人の記憶に残るということは何かが面白かったはずなんです。それが面白くない物語になっているとすると、面白い語り口ができていないだけなので、「なぜ記憶に残っているのか?」と、違う角度でほぐしていくと、面白く語り直せるはずなんです。僕はそれをやるということですね。
『宇宙兄弟#0』という映画ではムッタとヒビトの子ども時代を中心に描いています。そこで小山さんは全スタッフに「自分の幼少時代で最も記憶に残っているエピソードを1つ教えてください」と聞いたんです。そのとき監督が「豆腐屋さんが『容器を持ってきてください』と言ったのが『勇気を持ってきてください』と聞こえて、それをまだ覚えてます」と。それで、その勘違いを軸に90分の映画をつくったんですよ。
一同:へー!
澤本:すごい。その勘違い1個でつくれてしまうんですね。面白ければ。
佐渡島:それで「勇気をテーマにしよう」と決まっていきました。