3)可愛がられる努力。
ムードメイクとも近いけれど、後輩は、可愛がられるっていうことは大事だと思います。可愛がられることって、良いことも悪いこともあるけど、物事を落ち着いて見られるようになるし、チャンスも増えてくる。「チャンスに照れるな」って僕はよく言うんですけど、可愛がられることをダサいって思うなら、そのまま突っ張っていればいい。だけど、チャンスは来ないですよ。
僕の場合、会社員時代の初期は可愛がられようとする気持ちが強すぎて、「自分」がなくなってしまったことは反省している部分ではありますけどね。チームでカラオケ行ったときに、歌っている先輩の下で、普段吸わないタバコの煙でスモークをずっと焚いてましたからね。
今となっては、誰にも頼まれていないのに、何でそんなことをしてたんだろうって(笑)。当時も「俺のやりたいことってこんなことだっけ?」って自己嫌悪にはなっていたんですけど。
でも、可愛がられて損することはないですから、可愛がられる努力はすべきですね。逆に、上司に必要なのもやっぱり愛される努力。お互いに負の感情を芽生えさせないというか。負の感情って、芽生えた側も悪いんだけど、芽生えさせた側も悪い部分があるんですよ。なんか、こう、上手いことなぁなぁでやっていきたいものですけどね(笑)。
—可愛がられることとは、単に先輩をヨイショするっていうことではないですよね。
ヨイショとは違って、リアクション力が求められるんだと思います。「どう思う?」って言われたときに「自分だったらこうすると思います」とちゃんと言えるとか、出来上がったポスターを貼ったときに「すごい!かっこいい!」って言えるかとか。
前に、うちにいた社員で、みんなでご飯食べるときに「おいしい!」って必ず言う社員がいて。彼は最初は言わなかったのに、あるときから意識して言うようにしていたんですよ。簡単なことのようで、そういうのってその場の空気が動くというか、場を温めるのに、とても大切なことですよね。
そうしないと、会議をしていてもアイデアは出てこないと思います。これって古いやり方なのかもしれないけど、「自分には卓越したものがない」と自分で思っている人ほど、そういう努力をすることが必要だと思いますね。
そして、理想の部下・後輩の条件、最後はこれです。
4)尊敬する。
すごく普通の話ですけど、後輩だったらやっぱり「尊敬」を持つこと。年上の人が何か言ったときに、「なんか違うな」と思ったとしても、僕だったら、相手をバカにしたりはしないし、どうして違うのかっていうことを一生懸命考えます。僕はそういう後輩でいたいし、誤解を恐れずに言えば、できるだけ先輩の言うことを聞きたいんですよね。
今の時代、パワハラなんて言われそうですが、「メシ行くぞ」って言われたら、何か用事があったとしても行きたいなと思う。そういうことの積み重ねって、実はすごく大切で、それによって相手の近くにいることができて、近くにいることで、その人が日常の中でつぶやく真髄を生で聞くことができる。真面目な話、そういうことって大きいんですよ。「ジジ殺し」(編集部注:大物・重鎮から可愛がられる能力のこと)って、大事です。
『広告の明日』が見えるキーワード
「良い上司・先輩であり、良い部下・後輩であれ。」
自分のスキルを向上したり、チャンスを得たり、さらには業界を活性化・成長させていくためには、自分自身が良い上司・先輩になると同時に、良い部下・後輩である必要がある。そのための要素は、ごく当たり前でシンプルなことばかり。しかし、だからこそ実践するのは難しい。
箭内道彦(やない・みちひこ)
クリエイティブディレクター 東京藝術大学美術学部デザイン科准教授
1964年 福島県郡山市生まれ。博報堂を経て、2003年「風とロック」設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」リクルート「ゼクシィ」をはじめ、既成の概念にとらわれない数々の広告キャンペーンを手がける。また、若者に絶大な人気を誇るフリーペーパー「月刊 風とロック」の発行、故郷・福島でのイベントプロデュース、テレビやラジオのパーソナリティ、そして2011年大晦日のNHK紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストなど、多岐に渡る活動によって、広告の可能性を常に拡げ続けている。2015年4月、福島県クリエイティブディレクターに就任。