定価の無いダイナミックプライシングの導入
宿泊や航空業界では、そもそもの供給量(ホテルの部屋数、航空機座席数)が決まっており、需要のパターンが予想できるため、需要期の“価格上昇”“クーポン(マイル)などの利用制限”を実施している。
これは価格を引き上げることにより、「供給に沿った需要」を捻出する手段である。従って、決して“便乗値上げ”をしようとしているわけではなく、需給のバランスを取るために適正価格を付けているということを理解しないといけない。企業もバランスを超えた価格付けをすると、在庫のリスクが起こり、収益へのインパクトが生じることになるのだ。
日本では一部の業界を除いて価格変動への馴染みは薄いが、海外においては柔軟に価格を変動する仕組みは、もはや当たり前である。それは現在あらゆる業界に波及してきており、業界全体として特に取り入れているのが、やはり宿泊や航空業界であった。
以下の表に、簡単にまとめてみた。
筆者は海外生活や出張で “ダイナミックプライシング”を多く経験している。最近、皆様も“特定の時期になるとホテルの部屋が急騰”するといった経験をされているのではないだろうか?
例えば、以下のようなものだ。
出張で、ある路線を選ぶと各種ルート(乗り継ぎ)や価格が表示される。特に米国内であれば、その価格が保証される時間は短く、同じ検索を数分後に行なうと、その時の需給関係により新たな価格が計算されて出てくる。
そして航空券を予約しようとすると「その価格は後方の真ん中の席になります。前方、あるいは窓際や通路側、座席の間隔に余裕のある座席のご用意も追加料金でございます」のような表示がされ、「もっと良い座席を確保しますか?」といわゆるアップセルがかかることになる。アップセルの料金も一律ではなく、需給関係や座席の場所などにより、綿密に計算される。
また、米国内線では荷物を預けると紛失や盗難、破損のリスクも高いので手荷物を機内に持ちこむ顧客が多い。荷物収納スペースの確保が困難なため、「手荷物を収納するために優先登場できるオプションが追加料金で買えますが、いかがですか?」と優先搭乗の権利まで価格を付けて販売してくるのである。
ホテルも同様で階数、景観、他の施設へのアクセスで値段が違い、チェックアウト時間の変更などでも追加料金を払えば対応してくれるのである。民間ドライバーによる輸送サービスでも混雑時や渋滞時などは、割り増し料金がその都度計算され、あるいは時間がかかっても良いという人は割安の乗合オプションも提示してくる。
スポーツや音楽鑑賞も同じで、試合や公演の日時や混雑状況、座席ごとに価格が微妙に違い、予約時にはその席からの見栄えも確認でき、隣の席でも柱の位置などによっても大きく異なる価格となるのである。事前に予算を決めることは難しいのであるが、逆に適正価格を払えばいつでも行けるという資本主義の原則に則ったシステム、すなわち「ダイナミックプライシング」を実現しているのである。