“定価”のない時代が来ているのではなかろうか?
ダイナミックプライシングは、オークションのようなものであると考えると、わかりやすいだろう。入札の最終局面で価格が跳ね上がるように、部屋や座席や商品が少なくなってくると値段が上がることになる。
その思想が、仮に今回の問題となった施策に適用されていたらどうなるだろうか?
まずは“需要”側から考えたいと思う。
需要をコントロールする価格を変動:無料クーポンはユーザーが表示してからの利用するまでの有効期限や利用条件が現実の店舗ごとの利用状況によって変化し、あるいはクーポン以外の顧客の注文が優先されることになるかも知れない。運送会社は混雑状況により輸送料金を変更し、輸送量に応じた受注をすることになる。ピザ店は需要予測や実際の受注状況により、割引を中止し受注をストップするか、価格を引き上げ供給可能なレベルにコントロールする。
供給をコントロールする時給を変動:無料クーポンで混雑する店舗は顧客体験をそこねてユーザーが離脱しないように対応人員を増やすべきである。そのためには時給を上げないと人員の確保は難しいだろう。少子高齢化の中での人手不足はすでに始まっており、需給の関係に見合った時給が支払われていないケースも多いのではないか?運送業者も繁忙期には時給を上げないと輸送・配達の原資も確保できずに逆に供給を減らしますます対応できなくなる。ピザ店もパーティのある日に労働力を確保することが困難と思えるので、やはり時給を上げて対応する必要があるだろう。
需要を喚起する時の供給の確保:人手不足の解消や、獲得した人材のサービス品質の担保には値上げ、賃上げ、教育の実施が必要である。それを実現するためにはシステムの改修や強化に向けてはIT投資も必要となる。そのためにも、資本主義下における適正価格の確保は必須であろう。そして、それにより得た収益は将来の成長のための人的投資(教育)やIT投資に回しサービスや組織の強化をする必要があるのではなかろうか?
価格よりも価値(利便性・ブランド・社会性・自己実現)の時代
価格をあげても消費者はついてきてくれるのか?という問いは当然、生まれるだろう。筆者は価格以外の面でそれをコントロールするのが、マーケターの本来の姿であると考える。
大量生産をしてコストを落とし、統一価格の訴求をマスメディアで行う時代は、終焉を告げているのではないだろうか?
価格を下げることより、顧客にとっての各種価値を「サービス改善」「ブランド投資」「社会的価値提供(CSR含む)」、そして「自己実現・共創」というマーケティングの手法を用いて、実現する方法を考えるマーケターが多く現れないと、競争に負けてしまう時代は近いと考える。
逆にマーケターに関しては、その存在意義と経営への貢献を可視化できる時代が迫ってきたのでチャンスと捉え、システム投資を含めて各種提言と施策の実行を進めるべきでないかと考える次第である。