電通 古川裕也さんが振り返る 2016年 国内外の広告賞審査会【後編】

アワードが抱えていること

今年の傾向というか、キーワードとして、「勇気=brave」という単語がよく言われている。Burger King: McWhopperや、Rei:#OptOutsideなどが念頭にあると思われる。

ただ、僕の感じでいうと、より正確には「態度」なのではないかと思う。ここで「態度」とは、もちろんまずクライアントのそれだけれど、エージェンシーのそれも含まれる。一義的には、世界とどのように向き合うかというようなことである。

国内外どのアワードでも、今年評価されたものは、ブランドの態度が鮮明かつ説得力があった。そして、リアルだった。一時期のあからさまな賞狙いでブランドの本質、あるいは能力から離れているものは減ってきている。

そもそも世界には、企業が多すぎるのだ。淘汰の理由はそれほどシンプルではないだろうが、まず、世界に対するコーポレートとしての態度表明が明解に為されないところは早晩消え去るだろう。

アイデアの前に、どの課題に立ち向かうのかが同じくらい重要になってきているのだ。それは、まさに「態度」以外のなにものでもない。その課題を解決し少しでも社会を動かすこと。この一連の方程式こそ、ブランドが世界に対して為すべきプレゼンテーションなのである。

カンヌ・チェアマンのテリー・サべージによると、現状の悩みはふたつあるという。

ひとつは、カンヌ、スパイクス共通して審査員のクオリティの低下。もうひとつはスキャム問題だという。

前者は、自業自得でしょう。こんなにカテゴリー増やして、つまり審査員増やして。毎年200人以上クオリティ高い審査員など集まるわけがない。対策として、来年から予選はオンラインで、カンヌでの本審査は、各カテゴリー10人にするという。その結果審査員のいない国が出現するが、それもしょうがないと。ちなみに、2017は、スポーツライオンとゲームライオンが新カテゴリーとして加わるらしい。
 
スキャム問題は、今年特にひどかった。事前に取り下げたもの、事後取り下げたもの、逃げ切ったものなど。最近は、実在しないキャンペーンというのはさすがに少なく、いわゆる優良誤認、やってもいないこと、なかったことをあたかも実在したかのように、すでに存在するものを新たに自分たちで造ったかのように、ヒトが誤認するように応募ヴィデオを創るというのがけっこう多い。日本のはほぼこれ。何年か前スキャムだらけで受賞していた韓国の作品が審査にかかると、審査員みんな「韓国のだから調べた方がいいんじゃないか」と100%冗談でもなく言い合っていた。日本がそうなったら最悪だ。

フェアネスを失ってはアワードは成り立たない。ただ、完璧な対策はない。ただ、それは確実にアワードの価値とインダストリーの価値を下げる。長年続く問題でカンヌ自身も悩んでいる。なぜなら、それは、存在そのものを揺るがすクルーシャルな問題だから。

「態度」が問われているのは、クライアントばかりではない。対象にどのような「態度」で臨むのか、そしてそれを明解に示すこと。僕たちの仕事は、そもそもそこから始まる仕事のはずである。

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