「君の名は。」とDeNA「Welq」問題にみる、「結び」のマーケティングの重要性

DeNAの問題が提起する「結び」の意味

Welqに始まるDeNAのキュレーションメディア群の問題は、デジタルマーケティングに関わる広告主にも大きな衝撃をもたらしました。

端的には、広告主の経営陣に「あれだけの大手企業が信用できないことを行っているのだから、デジタルメディアは信用できない」というイメージを与えてしまったことです。日々新しい技術が投入されるデジタルマーケティングの分野で、広告主としても新しいチャレンジを行っていたなかで、全体としてブレーキが掛かってしまう可能性が発生したことが大きな懸念です。

もちろん今回の件は一部のメディアだけの問題であって、これまで真摯に取り組んできたデジタルメディアの人々にとっては無関係ですが、広い文脈ではデジタルメディアにおける情報の信頼性についてまで議論が発展してしまいました。

それはGoogleのページランクの論理がハックされたことの衝撃よりも、収益を得るためにメディアを成長させようとした「企業のマネタイズの論理」が情報を捻じ曲げてしまったことの現実についてです。

詰まるところ、情報の信頼性についての議論は、どんなメディアでも現実的には起こり得ることです。しかしデジタルにおいては、冒頭のトフラー氏の「プロシューマー」の概念のとおり、「Peer to Peer」で個人と個人がつながる場が最も実現しているからこそ、情報の信頼性がカギになっていきます。

ソーシャルメディアにおいても同様で、デジタルで個々がつながるようになってきたからこそ、信頼を裏切ると簡単に「炎上」のような事態が起きてしまいます。これはデジタルメディアの功罪の一つです。個々に広がったデジタルのインフラが、各自で監視しあうパノプティコンの社会のセーフティネットでもありつつ、もう一方では現実的にも正解がないような政治的な争いの場にも容易に利用される(Facebookのデマニュース問題のように)ことが起きていきます。

映画「君の名は。」の中では、ヒロインの宮水三葉の祖母の一葉が話す、「結び」という言葉が象徴的に出てきます。これは映画の中で主人公たちが出会うための重要なヒントであると同時に、この映画がなぜヒットしたのかを物語る「みんなの力」を示す言葉でもあります。この映画に「結ばれた」と考える人たちが、デジタルメディアでそれぞれの言葉で共有した結果がヒットの要因になったからです。

一方で、DeNAのメディアが「結んで」いたものはなんでしょうか?

それはある意味、デジタル上で検索する人たちの欲望を完璧に反映していました。だからこそ大量のトラフィックを得て、それを活用した広告ビジネスを展開できたからです。ですが同時に、その先に消費者がその情報をどう活用していくのかということが視野になかった。

企業の使命としてのコミットがまったくなかったため、結果としてデジタルメディアによって「炎上」し、その実態を暴かれてしまいました。それはつまり、自らが結んでいたものに、そのまま意義を問われたわけです。

このように今のマーケティングは、デジタルによって多くの人々を「結び」つけることで多くのチカラを得ることができると同時に、その「結び」の意義が個々を裏切ってしまうと、同じチカラによって解体される運命にあるように思います。

だからこそ私たちは、その結んだ情報をただの数値の一つと考えるのではなく、結ばれたリアルな人びとの「想い」を考えなくてはならないはずです。それがなければ、そのチカラは本当の意味を発揮することはできないでしょう。

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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