小霜:10万円出した人も1万円出した人も等しくエンドロールに名前が載るだけ、ですよね。映画が観られるならこれだけ出すよ、という人が数千人集まったってことで。クラウドファンディングってリターンとかおまけを求めるものだと思っていて、ふるさと納税に近いような感覚だったんだけど、Makuakeの考え方って全然違うんだなって。実際に急成長していますよね。
中山:おかげさまで。小霜さんの本を読んでからな気がしますね。おべっかでもお世辞でもなくて(笑)。
小霜:あ、ありがとうございます(笑)。
中山: ほかにも、掲載内容のタイトルをキャッチフレーズ化させないで、タグライン寄りのところで止めておくというのがあります。本にも書いてありますが、中身を見てもらうためにキャッチするのではなく、この中身にはこんな価値がありますよ、ということをわかりやすく伝える工夫もしています。
小霜:飲んだ席で中山さんから資金調達の苦労話を聞いたら、デジタル的じゃないんですよね。いい意味でね(笑)
中山:(笑)
小霜:『このセカ』原作者のこうの史代さんが支援者に絵葉書を直筆で書いていますよね。支援者からすると「すずさん※1からハガキが来た!」みたいな気持ちになる。この3000人分くらいのハガキに制作スタッフの人が自力で切手を貼ったとか(笑)。
※1 主人公:浦野すずのこと
中山:それ、私も手伝いました(笑)。
小霜:めちゃめちゃアナログですね。
中山:すずさんが送った手紙なので、消印を呉にしているんですよ。切手を貼ったあと、一度、呉の郵便局に運んで、そこから出すという一手間ですね。
クラウドファンディングに掲載してから公開まで、約一年半かかっていますが、支援してくれたファンの皆さんに毎週メールマガジンを送り、ファンの熱量を保ち続けたのは制作サイドの情熱だなと思いました。それを見て僕らは、制作途中の進捗とか状況を密に伝えやすい機能を作ろうと、コミュニケーション機能の開発に力を入れたんです。
小霜:中山さん、公開初日に映画館へ「観客」を見に行ったそうですね。
中山:そうですね。映画館から出てくるお客さんたちが、もう満たされ切っているというか。感情という容器があるなら、これ以上入りきらないくらい色んな想いを抱えて皆さん出てきて、それを見て、Makuakeを作ってよかったと心の底から思いました。お蔵入りしていたかもしれない作品を世の中に出せた、と思ったら涙が出てきちゃいました。
小霜:そういう人肌感がMakuakeの仕事にも繋がっているんだと思います。Makuakeがなかったら本当にこの映画はできていなかったと思うんですけど、うーん、そのMakuakeは僕の本があって成功したわけだから、もしかするとあの映画を生み出した元は、僕ってことになりゃせんじゃろか…?(笑)。
中山:言い切っていいと思います。
小霜:えっ、言い切っていいの?
中山:ずっと悩んでいたときに小霜さんの本に出会って。もうバイブルですよね。
小霜:『このセカ』の原作って、一話ごとに必ず“ヒトオチ”つけるじゃないですか。そのオマージュとしてオチを振ったんで…。「ほうじゃろか?」くらいで流してくれるかと思ったんだけど真顔で返されてしまった。
中山:なるほど。。。 ほうじゃろか(笑)。
中山亮太郎(なかやま・りょうたろう)
株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング
代表取締役社長
クラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」を運営。
2006年に株式会社サイバーエージェントに入社後、社長アシスタントや新規メディアの立ち上げを経て、2010年からはベトナムにベンチャーキャピタリストとして赴任し現地のネット系スタートアップへの投資を実行。 2013年に日本に帰国後、株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングを設立し代表取締役社長に就任。同年Makuakeをリリース。
小霜和也(こしも・かずや)
no problem LLC.代表 クリエイティブディレクター/コピーライター
1962年兵庫県西宮市生まれ。1986年東京大学法学部卒業、同年博報堂入社。1998年退社。2017年現在(株)小霜オフィス/no problem LLC.代表 。クリエイティブディレクター/コピーライターとしてマス・デジタルを横断する広告キャンペーンに携わる一方、幅広い企業のコンサルティングや研修などにも従事。広告賞受賞多数。 近著「ここらで広告コピーの本当の話をします。(宣伝会議)」、他著作「欲しいほしいホシイ(インプレスジャパン)」