「オヤジフェス2016!」旧は新を兼ねる。オヤジは若さの進化形。【前編】

【前回】「映画監督と広告人による、超アナログ的な制作の秘密「ふたりは なかよし」(後編)」はこちら

今回の電通デザイントークは、コトバの山本高史さんの最新刊『広告をナメたらアカンよ。』を読んだ有志の熱き思いから企画しました。広告界では常に「新しく、若い才能」が求められている一方で、広告ビジネスが複雑化し、コンサルタントやパートナーとしての成熟した視点も求められています。そんな状況の中、自分なりの仕事の見つけ方、戦い方をどう形づくっていけばいいのか?「オヤジ世代の“側に合わせる”のはナンセンスだけどさ…」とつぶやく山本さんと、オヤジ仲間で、のみ仲間でもあるグリッツデザインの日高英輝さん、山本さんが指名したワカモノ代表の電通の三島邦彦さんが語り合う座談会の前編です。

オヤジになって「良かったこと」は?

山本:今日の座談会のタイトルは「オヤジフェス」です。オヤジという存在には“ダメなところ”と“ダメじゃないところ”があると思っています。「昔は良かった」「近頃の若者は…」と言いながら、自分のことを語る姿はあまりカッコいいものではない。

一方で僕は、年を取れば取るほど自分の仕事が良くなっている、という確信も持っています。今日はそういうポジティブな「オヤジ論」を展開していきたいと思います。

日高くんもオヤジですが、年を取って良かったことはありますか?

日高:自分のことをオヤジと言うのはすごく嫌なのですが、実際にはオヤジと呼ばれる年齢になりました。

僕は会社を経営しているので、目の前に立ちふさがる現実や、業界におけるさまざまな事情と対峙せざるを得ない。そんな時に今まで手掛けてきた仕事や立ち位置を冷静に見極めて、自分と対話できるようになったことは年を取ってきた良さかなと思います。

山本:逆にオヤジになって悪かったことは?

日高英輝氏

日高:階段を上るときに息が上がるとか(笑)。

仕事の面でいうと、クライアントの部長や課長よりも上の年齢になってしまったことですね。やはり年上に仕事はお願いしづらいわけで、今後は依頼されづらくなっていくのかもしれないとリアルに感じています。

山本:僕も日高くんと同じことを思ったことがあります。ちょうど10年前の2006年に電通から独立したのですが、会社に在籍しているときは上司と部下に心地よく挟まれて、自分のポジションを意識することは少なかった。

ただ独立して一人になってみると上下から挟んでくれる環境がなく、自分のポジションに迷いが生じてくる。そんな時にクライアントの宣伝部長が僕よりも年下だと仕事のしづらさを感じて、「あぁ、俺もオヤジになったのだなあ」と思ったことがありました。

ただ最近は、関西大学で教壇に立つようになって「教授」という肩書をもらいました。教授の便利なところは年齢があまり関係ないという点です。

日高:山本さんは教授という別の肩書もあるのですね。

山本:大学で教えることで「経験値」についても考えるようになりました。経験値とは自分の脳が記憶している“考えた経験”です。その経験値をはっきり自覚しながら使うことができるかが“いいオヤジ”になるための分かれ道だと思うのです。

三島くんは年を重ねることについて、どう思いますか?

三島:ちょうどつい先ほど聞いた話ですが、人工知能はシミュレーションを重ねれば重ねるほど精度が上がっていくそうです。それはきっと人間も同じで、いかに思考を重ねていくかが仕事の精度にも関わってくると思います。

自分が悩んでいる時に、年上の先輩が「それはこうだよ」と一瞬で正解への道筋を示してくれることがあります。そのスピードは経験からくるものに他ならないと思います。

山本:電通にはオヤジがたくさんいるけど、どう思う?

三島:言葉の選び方が難しいですが、“尊敬できるオヤジ”と“尊敬できないオヤジ”がいます(笑)。

尊敬できるオヤジは“会社の宝”です。ただし僕は、尊敬できないオヤジの話を聞くこともけっこう好きです。尊敬できないオヤジはかつて、ものすごく頑張った人が多くて、常軌を逸した話をたくさん持っています。そうした経験を聞いてワクワクするのも、年上の人が会社にいる楽しみですね。

次ページ 「みんな失敗を経て成長した」へ続く

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