人の心を動かす映像の原点
2016年12月14日にお披露目された作品は、国の重要文化財に指定されている大阪市中央公会堂をキャンバスに、新幹線、大阪万博、新世界のネオンなど、大阪という街の情景の今昔が映し出される。この作品は大阪芸術大学の学生と高校生によるプロジェクトから生まれた。
この分野の第一人者で、大阪芸術大学アートサイエンス学科客員教授の村松亮太郎さん率いる同プロジェクトでは「0×0=∞(無限大)」というテーマを掲げ、6月から約半年にわたりワークショップを実施。プロジェクションマッピングや映像制作の基本的な考え方を学びながら、村松さんは学生たちとゼロから作品をつくりあげた。
「大阪を代表するイベントゆえに、発表する作品には学生だからという言い訳はできません。人に見てもらうためにはどんなものをつくればよいのか、学生たちにとって単にビジュアルをつくるだけではなく、新たな挑戦の場になりました」と、村松さんは振り返る。
コンセプトは「都市とは、過去から未来を創造してきたアート」。これはある学生が出した「今昔」というテーマに着想を得たもの。村松さんは学生たちが描いた絵をベースに、CGでビジュアル化した。
物語は約8分。大阪市中央公会堂の誕生から現在に至るまでの100年の間に、大阪という都市の情景がさまざまなものの進化と共に移り変わり、さらに交わりながら、未来へとつながっていく。
アートとテクノロジーが融合する“新たな光のアートサイエンス”とも言える作品は懐かしさと同時に、新しさも感じられ、多くの人から称賛の声が挙がっている。
現在、村松さんは長野県阿智村のブランディングディレクターを務める他、全国各地で多様なプロジェクトを手がけている。そんな村松さんの作品はいずれもエンターテインメント性が高く、「人の心を動かす」と定評がある。
「プロジェクションマッピングと言えば、一般的にテクノロジーに注目が集まりがちで、制作者もそこによった表現を考えることが多い。制作する上でテクノロジーは確かに必要ですが、それよりも大事なことは、寒い中、会場まで足を運んでくれた人たちの心にいかに触れることができるか。その人たちにどんな体験をしてもらえばよいのか。目の前にあるものをいかに“現実拡張”できるか――どんな作品でも見に来る人たちの気分や行動を徹底的に想像しながら、物語を考え、世界観をつくっていきます」。
プロジェクションマッピングの未来についてたずねてみると、「いま自分がさまざまなプロジェクトで実現していることこそ、これからのプロジェクションマッピングのあるべき姿」という答え。村松さんのこれからのプロジェクトの中に、アートサイエンスの新たなる形を見つけることができるかもしれない。
編集協力/大阪芸術大学