金沢で考える、地域と文化が育むクリエイティビティ――福光屋、soilが革新を続ける理由とは?

金沢は、日常の中に常に「本物」がある街

千布:2社のクリエイティビティは、金沢という土地柄と関係していると思いますか。

石動:実はsoilは、金沢色をあまり表に出さないようにしているんです。「soil」の事業パートナーである、名児耶さんから、金沢は加飾の文化だから、シンプルな「soil」の世界観には合わないとアドバイスを受けたことがきっかけだったのですが。なので、今回の座談会のテーマを聞いた時、正直「困ったな」と。

福光:僕も金沢という地に誇りを持っているし、大事に思っていますが、福光屋の直営店は東京の方が、圧倒的に数が多い。東京のイベントに参加をする機会も多いですし。

千布:地域に根ざした企業ではあるけれど、金沢というスケールに留まらない。2社とも世界の中での立ち位置を持っている気がしますね。

福光:そうですね。

千布:soilというプロダクトは、金沢の地だからこそ誕生したということはないでしょうか。

石動:石川県は冬に強風が吹くので火事を防ぐため、土蔵建築が多いと言われています。その中で左官の技術も発達してきました。また北陸地域は湿気が高く、壁材として珪藻土を使うことが多く、当社でも能登の珪藻土を使ったオリジナルの壁材をつくっていた。その給水・吸湿性の高さはわかっていたので、「金沢だから」と言うこともできるかもしれません。

福光:自分たちの知らないところで金沢という地の影響を受けているところはありますよね。僕は、金沢の魅力は生活の中に「本物」が常にあることだと考えています。

例えば、「soil」のバスマットを愛用しているのですが、金沢の人たちは常に「本物」の商品に囲まれ、それを生活の中に取り込んでいます。そういう環境にあるので、常に「本物」を目指す、極めるという意識が刷り込まれているとは思いますね。

千布:福光さんは東京、ニューヨークでも暮らしていたことがある。それでもやっぱり金沢に「本物」を感じるということですか。

福光:ええ。同世代の人たちが、お茶や三味線を普通に習っている街って、なかなかないですよ。石動さんが代表格ですが、お茶屋に行ってサッと長唄を謡えるような粋な旦那集が多い。

石動:京都にもお茶屋の文化はありますが金沢の方が、経済人がお茶屋さんでよく遊んでいますよね。

千布:日常的に文化や歴史に触れる、その遊びが新しいアイデアを生み出すインプットになっていそうです。

石動:そうかもしれません。

福光:石動さんは、よくイタリアにも行きますよね。そういうところからも刺激を受けていそうです。

石動:イタリアに行くのは趣味でもありますが。イタリアの「ミラノサローネ」、ドイツの「アンビエンテ」など海外の展示会は毎年、出展していて、その会場で3日くらいかけて他の展示を見てきます。そこから新しい商品のアイデアが生まれたりします。

実際に必要とされるのかを徹底的に検証

千布:新しいプロダクトをつくるとき、自分が欲しいと思うモノから発想するのでしょうか。

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石動:soilのプロダクトには2つの方向があって、ひとつがバスマットなどの量産が可能なもの。それだけに模倣品も出てきているのですが、これはこのままいくしかない。

もう一つがハブラシ立てやソープディッシュなど量産できない手づくりの商品群です。決して数はつくれませんが、試作品をつくる開発費は10万円もかかりません。

ですから、アイデアが生まれたら実際につくってみて、それを社員が使ってみて、本当に生活の中で必要とされるものかを考える。試作をつくるのは比較的簡単なので、実際に必要とされているものなのかを検証するプロセスに時間をかけています。

千布:福光屋さんは、どうでしょうか。本物を知った上で、新しい挑戦をしていかなければならない。見た目の新しさや、これまでの日本酒のイメージにないようなデザイン性を追求するだけならば、新商品開発もしやすいと思いますが。

福光:「それは、本物なのか?」という自問自答と葛藤の中から、新しい商品を生み出していくという感じでしょうか。日本酒は味だけでなく、瓶のデザインやラベルの書などすべて含めてひとつの価値。決して、見た目のラベルをスタイリッシュにすればよいというわけでもありません。常に試行錯誤を繰り返しています。

千布:福光屋さんは挑戦をしながら、日本酒のアイデンティティをとても大事にしていると感じます。アイデンティティが分かっているから、思い切ったジャンプができるのではないでしょうか。

福光:アイデンティティが言語化され、共有できているわけではなく、あくまで何となく、ですが。ただ、その時々の社長が自分なりの回答を持っているな、と感じます。決して父は、その答えを教えてくれはしないので(笑)。自分なりに見つけていくことになるのだと思いますが。

千布:金沢に来てすぐに福光さんとお知り合いになり、そこから石動さんを始め、たくさんの地元の経済人の方を紹介いただき、お茶屋にも連れて行ってもらったり…。

福光:金沢はその時代ごとに、外から名プロデューサーとなる人がやってきて、今の文化ができあがっていると思います。ですから、自分たちの中だけで、すべてを完結させようとは思っていないんです。

石動:新しい頭脳、考え方は必要で、例えば東京で仕事をしていた人とか、僕たちもとても興味がありますよ。金沢らしさを踏まえながら、今よりもっと金沢をよくしようと考える人たちとは、新しいことに挑戦していきたいですね。

千布:まずは、金沢の歴史や文化を知ろうとする気持ち。そして、金沢という土地の特性を知ろうとする気持ち、そしてその土地の文化に対するリスペクトの気持ちがあってこそ、化学反応が生まれるのかなと感じました。今日はありがとうございました。

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今回の座談会は金沢市内、兼六園近くにある、石川県立歴史博物館にて実施。1909年に竣工された歴史ある建造物を再活用した施設で、90年には国の重要文化財にも指定されている。外観は竣工当時の姿を忠実に再現しつつ、内装は外観と調和をはかったモダンな装いとなっている。

会社紹介

soil
セレクトショップなどでここ数年よく見かけるようになった、珪藻土(けいそうど)を用いた吸水性・吸湿性のあるバス・キッチングッズ「soil」。このブランドを手がけているのが、左官業として200年以上の歴史を持つイスルギが設立したsoil。もともと、イスルギの新規事業として生まれた珪藻土グッズブランドだったが、2015年の5月より別会社化された。

福光屋
石川県内のみならず、東京・丸の内仲通りや東京ミッドタウン、松屋銀座など都内にも直営店を多く出店する1625年創業の老舗酒蔵。近年は米発酵技術に着目し、スキンケア商品や甘酒、調味料、ライスミルクなどアルコール以外の商品開発にも力を入れている。


編集協力:AMD株式会社
撮影協力:石川県立歴史博物館 ほっとサロン

「クリエイティブ・ワークスタイル・ハック・プロジェクト」とは?

2016年9月にブランディング・エージェンシーのAMDと、宣伝会議のマーケティング研究室が共同で立ち上げた研究会。約1年をかけて「今、求められるクリエイティブチームのありかた」をテーマに、様々な立場の広告主企業の担当者などと議論を行い、そこから得られた知見を発信していきます。
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