【前回のコラム】「コピーライター 谷山雅計さんに聞く教育論「コピーライターはどう育てるのか?」」はこちら
今野です。この連載コラムは、お笑い芸人である僕がコピーライター養成講座を受講して、そのレポートを書くという内容です。
今回は3度開講された、テレビCMの講座について執筆します。
テレビCM~講座篇~
テレビCMをテーマにした授業は、講義形式(1回)と課題制作(2回)がありました。講義形式の授業の講師を担当したのは、ワトソン・クリックの山崎隆明さんです。
講義の始めに山崎さんは、CM制作において“what to say”(何を言うか/メッセージ)の重要性を語りました。大前提として「広告は誰も見たくないもの」であるからコピーライターやCMプランナーの仕事は、その見たくないものを「消費者が見たいものに変換する仕事」だそうです。
そこで大事なのが、消費者として何を言われたら買いたくなるかを察知する「人と同じことを考えられる能力」なのだと語りました。
僕はこの説明がとても腑に落ちました。コピーライター養成講座の前半でも何度か“What to say”を掴みなさいと言われるのですが、「メッセージを絞ることが重要」くらいにしか受けとめていなかったです。
でも「人と同じことを考えられる力」がないと、共感できるメッセージは見つけられないと思い直しました。つまり、どんなにCM表現が奇抜でもメッセージは人の共感を呼ぶものでないと、広告として機能しないし、買いたいとも思わない、ということだと思います。
続いて山崎さんは、“How to say”(どう言うか/表現)ついて語りました。こちらは「人と違うことを考える能力」が大事だそうです。簡単に言うとオリジナリティーですね。
最近読んだ、エステーの宣伝部長・鹿毛康司さんの著作『愛されるアイデアのつくり方』でも7割のCMが記憶すらされていないという事例を紹介していました。残念ながら、覚えてすらもらえないCMは存在してないのとほぼ同じなのだと思います。それらは良い、悪いの価値判断すらしてもらえないのです。
僕が売れてない芸人だから、特にそう思うのかもしれません。面白い、面白くない以前の認識されてない状態は、お客さんにとっては存在してないに等しいのです。そうならないために、他社のCMに埋もれない独自性が必要だと思います。
その後は山崎さんが今まで制作したCMを例に(ホットペッパー・日清カップヌードル・TOTOトイレ・キンチョール・サントリー・タマホームなど)、どんな“What to say”から“How to say”を導き出されたのか開陳していました。
印象に残ったのは、ストーリーがないCMが多いことです。山崎さんの手掛けたCMはアイデアや演出で独立した1つの世界を作っていて、映画やドラマで用いられる起承転結はほとんどありません。
山崎さん曰く、ストーリーがあるCMだと最初に目にした時の効果は高いが、2回目以降は視聴者がその後の展開を覚えているため効果が薄れると仰ってました。確かにストーリー主体のCMは最後を知ってしまうと、気に留めることがなくなりそうです。CMという反復を前提とした広告だと、1つの世界を作り込んだ中毒性の高い方が、「繰り返し」に耐えられて印象に残るのかもしれません。
ただ僕は、ストーリーもののCMでも、役者さんの演技で繰り返し見たいなと思うことはあります。例えば大和ハウスの深津絵里さんとリリー・フランキーさん主演「ここで、一緒」シリーズは、何度観ても「この関係性は良いな」と、自分の所得を忘れて「こんな家住みたいなー」と思ってしまいます。
ちなみに、お笑いも初見のネタの方が大体面白いです。そりゃそうです、2回目以降はどんな設定か、どんなフリでどんなボケがくるか、ネタバレしているわけですから。ただスゴイ芸人だと…例えば東京03さんのコントは人間関係をベースにした長尺のドラマやストーリーを見せるコントが多いですが、同じネタを繰り返し見ても面白いです。それはどうなるかが分かっていても、演技が面白いので個々の過程を楽しめるからだと思います。何なら2回目、3回目の方が粒さに観ることができるため、より面白く感じることもあります。
結論としては、CMとして機能すれば方法は何でもいいと楽観的に受けとめました。ただ、一流の人はそれぞれ作家性を持っていると思います。ももクロのミュージックビデオなどを手掛ける黒田秀樹さんの講座でも自身の作家性について語っていました。黒田さんは日常ドラマではなく一貫して非日常のCMを作っていると仰いました。自分の得意なことが他者にも広く認識されたら、その作家性が「広告界に対しての広告」になるのだと思います。