『逃げ恥』と広告
僕は学校という組織と折り合いが悪く、小中高大とほとんど楽しかった思い出がありません。
そんな僕でもコピーライター養成講座は面白く、毎回通うのが楽しみでした。それは現役で広告の仕事をしている講師の方々が、何をどう伝えるかを真摯に考えているからだと思いました。
通わせていただき、ありがとうございました!!!
最後に気の利いたことを言いたいのですが、個々の講座の感想はあれど、半年間振り返ると「楽しかったです」という小学生の作文クオリティの感想しか出てきません。
そこで唐突ですが昨年末に大ヒットしたテレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の話をして終わろうと思います。なぜなら、第9話の広告がフィーチャーされた箇所について述べることが、締めくくりにふさわしいと思ったからです。
それは主人公みくりの伯母にあたる、石田ゆり子さん演じる「百合ちゃん」のエピソードです。百合ちゃんは外資系化粧品会社「Godard」(以下ゴダール)で広報本部長として働いています。その地方限定広告が上司によって勝手に、おじさん目線のダサい広告に変えられてしまいました。
そのダサい広告とは何かというと…モテとか愛されメイクみたいな男性のために化粧するという動機で化粧品を売ろうとするものです。
コピーは「細胞まで愛されたい。目指せモテ肌。」ちなみに「愛」と「モテ肌」のフォントだけ少し大きくなっていました。細かくダサいですね。ポスターの色は女子と言えばピンクでしょといわんばかりの安いピンク。
これまでの10年、百合ちゃんとゴダールの女性たちが作ってきた広告は、男性のために化粧するのではなく女性が自分自身のために化粧をするものでした。コピーは「自由に生きる。美しくなる。」百合ちゃん自身の生き方に即していうと「結婚しないで年齢を重ねても好きなことを仕事にし続ける」自由と美しさです。
ただゴダールのコピーの意味は、それにとどまらないと思います。シングルマザーや同性婚や年齢差カップルや専業主婦など、個々人の自由な選択のために美しくなるという意味だと捉えられます。周囲の生き方に惑わされず埋没せずに生きることは、口で言うのは簡単だけど大変な困難が付きまといます。ゴダールは広告でその生き方を代弁してきたからこそ、支持されていたのです。
百合ちゃんは皆を代表して上司に広告を元に戻すよう、直談判に行きます。彼女が賢明なのは、上司と交渉する際に「モテ」的な広告があること自体を否定していないことです。実際、そういう目的でお化粧する女性もたくさんいるでしょう。しかしゴダールは、そういう価値観の企業ではないという反証を百合ちゃんはするのです。現にユーザーの9割は企業コピーを支持しているというデータを携えて。
さて、この急に始まった「ドラマレビューコーナーは、何なんだよ!」という方にそろそろ結論を言います。
「広告を作ることも大事だけど、守ることも大切なんだな」と思いました。コピーライター養成講座では作ることを教わるわけですが、コピーは採用されて社会に出れば、制作者の手を離れます。企業のコピーであり、それを支持するユーザーのコピーになります。
その愛されたコピーを守ることは、価値観の表明をし続けることです。それは企業だけじゃなく社会的に意味があるという行為だと思います。その旗を上げ続けることで、人を消費行動に駆り立てるだけでなく、生活を支えるモラルになると思うのです。そしてそれを降ろすことは、支持していた顧客を否定することになります。もしゴダールが「モテ」側にシフトチェンジしたら「結局、憧れている風には生きられないのか」という絶望をファンに伝えてしまうでしょう。
カッコ良いコピーやCMを次々と制作することは、クリエイティブで憧れる対象ではあるけれど、視線を向けた先に当たり前のように存在している価値を守ることも尊い仕事だと思います。ある意味、広告は場所や時間を変える建造物のようなものとして存在しているのかもしれません。なくなった時に無性に寂しさを感じるものですし。今、「わりと上手いこと言った」と思っています!
で、なぜこの話を連載の最後にしているのかというと、広告自体は人の利益や幸せのために存在していることを僕がすっかり見失っていたからです。多分、宣伝会議賞で100万円を貰ってから、ずっとそうでしたね。何か書いて、お金を貰うものとして自己完結していました。
ドラマの後半で百合ちゃんとイケメンがゴダールの広告を見ながら語り合うシーンがあります。その広告は二人が見上げる高さに位置しています。
書くと恥ずかしく見えるかもしれないですけど、あたかも「星」のように演出されていると思いました。それが目指す星であれ見守る星であれ、人の心を灯す光であれば良いなと思います。そうです、連載の最終回っぽいフレーズを入れてみましたよ。
僕もこれからは新しく作られた広告のみならず、持続して支持されている広告の価値に着目したいと思います。そして、自分の広告を守ることを大切にしようと思います。
本業の話をすると(僕はお笑い芸人です)、トリオ名を昨年改名して「シンブン」にしました。その名の通り、新聞に載るような社会問題をテーマにネタを作っています。
この「シンブン」という、ほとんど知られていない小さな名前を守り大きくしていくために、これからも活動を続けていきます。
半年間、誠にありがとうございました!!!!!
今野和人(お笑い芸人/第53回宣伝会議賞グランプリ)
1984年12月7日生まれ。国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。プロダクション人力舎の養成所「スクールJCA」で雨宮龍也・井村俊哉とともに、お笑いトリオ「シンブン」を結成。キングオブコント2011準決勝進出。第53回宣伝会議賞グランプリ受賞。現在、日本テレビ毎週月~金曜日『ZIP!』で放送中の『朝だよ!貝社員』の脚本に参加。https://twitter.com/thefly_konno
「コピーライター養成講座」
講師は一流のコピーライターが直接指導 プロを育てる実践型カリキュラム
いまでも多くの有名クリエイターを輩出している本講座。幾度かの改変を経て、内容を一新。コピーやCMといった、広告クリエイティブだけでなく、インタラクティブ領域のコミュニケーション、マーケティングやメディアクリエイティブなど、さまざまな視点からコミュニケーションを構築する能力を養い、次世代のクリエイターを育てます。
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