非進化論について
佐藤:ところで、この対談の『非進化論』ってどういうことですか? 進化の話ですか?
渡辺:近頃、周りを見ていると、これまでとは違うやり方で注目されたいって、どんどん新しい方向へ向かう人が多い気がするんです。例えば広告の世界だと、海外で賞が獲りたいとか、広告とは違う領域で評価されたいという人が増えている気がする。優秀だなと思う人が、広告のメインストリートから違う道へどんどん進路を変えていく。僕が前だけ見てまっすぐ運転していたら、急に道が空いてきた感じがするんです。そうなると僕はアクセルを踏めるから気持ちいいんですけど、このままだと一緒に走る人がいなくなるんじゃないかという気持ちがして…。誰もいないところを走るのは嫌だなって思い始めたんです。新しい方向を模索するんじゃなく、同じことを同じチカラでずっと続けてちゃダメですか?ってことを、広告の世界の外側にいる人に聞いて歩くのが、「非進化論」の趣旨です。そこで、ずっと同じことを続けている人を探した時に、オオキさんのことがすぐに思い浮かんで。オオキさんは毎日、同じルーティンを繰り返していますよね。
佐藤:はい。仕事でもプライベートでも、できるだけフラットに生活しようと思ってます。
渡辺:まだオオキさんと出会う前のことですが、毎日、同じ蕎麦屋で、同じ蕎麦を食べてるから、蕎麦の打ち手の違いがわかるという話をラジオで聞いたんです。
佐藤:そうなんですよ。誰が打ってるか、わかるようになったんです!
渡辺:この人、ちょっとおかしいのかなって思いました(笑)
佐藤:同じものが100個並んでるけど、それを一つひとつ、細かく区別できるのって気持ちいいじゃないですか?違います?
渡辺:違くはないけども…飽きませんか?
佐藤:毎日、同じことを繰り返すのって安心なんです。いろんなことを考えなくていいですから、脳がめちゃくちゃラクなんです。僕は毎日、同じ服を着ているから、朝、何着るか考えることなんてない。靴下も同じものしか持ってないので、合わせる必要がないんです。
渡辺:よく「インプットが大事」って言うじゃないですか。いろんなところに行って、いろんな経験をして、それこそいろんなものを買うとか。
佐藤:そういうことは、全くしないですね。むしろ海外なんかに行くと、イレギュラー過ぎて何も頭に入らないです。キレイだな、カッコイイなって思っても、自分の一部にはならない。むしろ、こうやって会話してる時や、打ち合わせしてる時のほうが刺激を受けます。仕事の刺激は仕事の中にあるんですよ。
渡辺:たしかに。仕事のインプットは、ほぼ仕事でできますもんね。