#非進化論8:代表作は、つくらない(デザイナー:佐藤オオキさん)

「進化」ではなく「退化を抑える」

渡辺:僕は、意図的にルーティンな生活を繰り返すオオキさんを通して、「非進化論」的に何か発見があるんじゃないかと考えているんです。

佐藤:「進化」を考えるより、「退化をどう抑制するか」を考えるほうが面白いと思います。クリエイターって、すごい勢いで退化すると思うんです。僕が同じような毎日を繰り返すのはそこです。波をつくらない。1日の波、1年の波、10年の波。キャリアを通じての波は全部連動していて、今日、波をつくると、どこかでスランプを迎えるんだろうと思っています。だから、代表作をつくるのが怖いんですよ。当然、失敗も恐いんですが、調子が良いのも恐いんです。やればやるだけ結果が出て、絶好調って時はビビりますね。むしろ、それをどう抑えるかを考えます。絶好調な時ほど、仕事量を抑えてる。逆に、このままいくと調子悪くなる時も抑えて…できるだけフラットな状態でいることを目指しています。野球で言えば、ホームランも打てないし、三振もないけど、どんな球が来ても、常にツーベースを打つ感じですね。

渡辺:それですね!今の言葉で、紐がほどけるようにオオキさんの思考がわかってきました。

佐藤:自分の波をつくらないとか、退化を抑制する方法って、「捨てること」だと思うんです。固執しないで、ポンと捨てる。自分のアイデアや、成功にしがみついた瞬間に、人は下降すると思うから。自分がベストだと思ったものでも、翌日には捨てて全部忘れる能力は大事だと思います。僕、捨てるのが好きなんですよね。どんどん捨てていきたい。それが、フラットな日々にもつながるんだと思います。

渡辺:僕たち、タイプとしては正反対ですけど、根っこが同じなんですよね。今のお話、ものすごく理解できました。まだまだ話し足りないですね。近々、飲みに行きましょう!

佐藤:ぜひ行きましょう!


僕の想像を軽々と超越した、明確なビジョンと骨太な意志が、強靭な背骨となってオオキさんを支えていることを改めて見せつけられ、心底驚かされました。
自分に対する、徹底したルールづくり。デザイナーとしての、緻密なペース配分。意識的に繰り返される、ルーティンな日常。「佐藤オオキ」という生き方そのものが、ひとつの壮大なデザインなんだ。僕はそう感じました。
10年前、僕が潤平社を立ち上げた時に掲げたキーワードは、「現状維持」。ブームにならず、調子も落とさず、一段ずつ、同じペースでゆっくり階段を上がっていく。そんなイメージが自分の理想とする成長曲線だったし、それは今も変わりません。それを完璧なまでに遂行しているのが、オオキさんなんじゃないか。そう考えると、僕はまだまだ不安定だし、自分に対する覚悟が足りない。それを痛感した一日でした。
オオキさんとは結局、正月早々に飲みに行きました。広告のこと、デザインのこと、人生のこと。鍋をつつきながら、僕たちの非進化論は日付が変わるまで続きました。

非進化論的メモ

  • 仕事の刺激は、ほぼ仕事にある。
  • フラットであるための、ルーティンとしての日常。
  • 代表作は、つくらない。
  • 「進化」を考えるより、「退化をどう抑制するか」を考える。
  • 大切なのは、固執しないで捨てること。
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渡辺 潤平(コピーライター/渡辺潤平社代表)
渡辺 潤平(コピーライター/渡辺潤平社代表)

渡辺潤平(わたなべ・じゅんぺい)
コピーライター。渡辺潤平社代表。1977年生まれ。千葉県船橋市出身。早稲田大学教育学部卒業。2000年博報堂入社(第2MD局、第3制作局、第2CRセンター第5制作室)、2006年博報堂退社、同年6月よりground LLCへ参加。 同年12月よりフリーランスとして活動開始。2007年に渡辺潤平社を設立。

渡辺 潤平(コピーライター/渡辺潤平社代表)

渡辺潤平(わたなべ・じゅんぺい)
コピーライター。渡辺潤平社代表。1977年生まれ。千葉県船橋市出身。早稲田大学教育学部卒業。2000年博報堂入社(第2MD局、第3制作局、第2CRセンター第5制作室)、2006年博報堂退社、同年6月よりground LLCへ参加。 同年12月よりフリーランスとして活動開始。2007年に渡辺潤平社を設立。

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