「Medium」の広告収益モデルからの撤退の衝撃
上述のような、高品質を旨とするメディアが継続可能な事業モデルとなるための取り組みは、依然として2017年の大きな課題だ。デジタルメディアにおいては、限られた数のメディアが果敢にペイウォール(有料会員制など、特定の読者に限定して記事の閲読を許すメディア)による収益モデルを追求しているものの、多くのメディアは規模化を追求した上で広告収益を最大化して事業継続をめざすというのが、この十数年の基本的図式だった。
2016年にはその基本的図式に変化が見られた。まずイギリスのEC離脱をめぐる国民投票の帰趨をめぐって「Financial Times」が、次にアメリカの大統領選で「New York Times」が購読者で大きな伸張を見せた。いずれも伝統的に高品質を強みにするメディアだ。この経緯については、「Webメディアへの信頼が揺らぐなか、課金型メディアが新たな局面を迎えている」の回で詳しく述べた。
この動向に拍車をかけるような事件が、2017年初頭に生じた。
Twitterの創業者としても知られるEvan Williams氏率いるメディアプラットフォーム「Medium」が、広告による収益モデルの構築を断念し、関連する社員ら50名をレイオフすると発表したのだ(「広告・ページビュー依存のモデルからの脱却を目指すMediumが社員の1/3(50人)をレイオフ〜月間6000万人が利用するメディアプラットフォームのこれから」を参照)。
Mediumと言えば、Williams氏一流のこだわりが細部にあふれ、ユーザー体験の観点からディスプレイ(バナー型)広告を創業以来、掲載していないことでも知られている。プラットフォームながら、著名なコラムニストらに原稿料を支払うなど、品質へのこだわりも格別だ。月間6000万ユーザーを擁して成長を続けながらも、それを支える収益モデルが広告では得られないと匙を投げたのだから、衝撃は大きい。
Williams氏は「インターネット上における広告モデルに基づいたメディアは壊れている。それは人々のために役に立つものでないし、そもそもそのようにデザインされていない」としながらも、ではそれに代わるモデルは何かという点については、言及を慎重に避けている。「脱広告=ペイウォール型」への転換なのか、Mediumの戦略は現時点では定かでない。
この一件からも、メディア業界では「高品質=大規模=広告収益モデル」という楽観的な等式の成立についての懸念が膨らんでいる。
筆者に関していえば、広告なのか、それともペイウォールなのか、あるいは小額課金かという「択一論」ではないと考えている。
というのも、規模化という選択にあえて背を向ける方針をとったにしても、メディアは何らか新たな読者との出会いを避けて歩むわけにはいかない。その点で、すでに購読基盤(読者がその質に慣れ親しんでいるという前提)がある新聞社などと異なり、基盤のない新規メディアには、初見の読者と広く出会う仕組みが欠かせない。そうなれば、ペイウォールとソーシャルメディアといった外部プラットフォームとの関係は対立の構図ではなく、なんらか協調する仕組みが必要となるだろう。その具体的な展望については別の機会に論じよう。