広告業界のイチローが見ている先は【前編】

大きい会社ではなく、大きな影響力をもった会社に

川島:レイさんは業界でも一目を置かれるR/GAでECDとして活躍され、その後当時は知名度が決して高くなかったAKQAを大きく成長させ、クリエイティブのトップとして活躍されていました。そんな誰もが一目を置くポジションを離れ、自分の会社Inamoto & Co.を立ち上げた。それにはきっと深い考えがあってのことだと思います。Inamoto & Co.についてのビジョンなどを聞かせていただけますか?

イナモト:20代前半から16、7年ほどエージェンシーという組織の中で働いてきました。それはとてもいい経験で、自分自身の成長にもつながった。後悔なんてことは全くありません。この歳になって、このまま60歳まで働き続けるって考えると、サッカーで言えば今がちょうどハーフタイム。じゃあ次の後半にどういう試合をしていこうと考えた時に、同じやり方でゲームをしてもちょっと先が見えすぎちゃう気がしたんです。

エージェンシーという形で大きな企業で働くことも、もちろんやり甲斐はあった。ただ広告業界で活躍する僕よりも20歳上の世代を見たときに、今だに80年代、90年代の広告の黄金時代の残りで輝いているところがある気がしました。ただ変化のスピードはどんどん早くなっている。だから今後20年後に今と同じやり方で広告業界で仕事をしていても、その輝きは残っていないのではないのかという疑問があったんですね。何かを変えていかないとという危機感がありました。

クライアント側に移らないかというお誘いもいただきました。そっちの方が居心地がいい安心した生活はできるだろうけど、他の人がつくったものに乗っかるだけではちょっと虚しい。そしてやっぱり先が見えすぎちゃうんですよね。せっかくやるのなら自分でゼロから始め、そして見えないことを創り上げていくことの方が、もちろん不安だけど、もっとエキサイティングではないかと思いました。それが自分の会社を立ち上げた個人的な理由の一つです。

会社の側面からいうと、一つは企業やブランドの新しいプロダクト、サービス開発、そして21世紀のCX、つまりカスタマー体験 (Customer Experience) の在り方の戦略と構築のお手伝いをさせて頂いてます。 コンサルだけではなく、そこからアイディアを可視化しそして形にする、そういう仕事です。もう一つは自社でもプロダクト開発をしている。オリジナルのものを開発している最中でどこかを目処に発表出来ればと思っています。

スペインにEl Bulli(エル・ブリ)というレストランがあるのですが、そこでは一年間のうち半年はレストランとして経営し、残りの半年はレストランをラボとして活用して新しい料理を生み出している。それがインスピレーションにありました。デザイン、データ、テクノロジーを駆使してそれをやりたい、そういう思いで立ち上げたのがInamoto & Coという会社です。

だから10年後には「大きい会社」になりたいというよりは、「大きい影響力を持った会社」になりたい。そういうビジョンがあります。

次ページ 「エージェンシーがサービスを開発するには」へ続く

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川島 高(アートディレクター)
川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

Facebook: https://www.facebook.com/takashi.kawashima
Twitter: https://twitter.com/kawashima_san

川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

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