エージェンシーがサービスを開発するには
川島:自社プロダクトやサービスという話がありました。広告業界ではそこに注目している会社が増えつつあると思います。レイさんが率いていたAKQAでも例えば360度のコミュニケーションではなくて365日使うようなコミュニケーション、「365>360」をというキーワードを掲げて力を注いでいました。そういった背景もあり、デジタル・エージェンシー、そしてそこで働く人たちは特にデジタルプロダクトをつくる技術や経験を個人としても、また組織としても培ってきました。現にエージェンシーがプロダクトづくりに参加することも増えてきているし、個人でもエージェンシー側からクライアント側に、しかもマーケティング部門ではなくてプロダクト部門にもここ数年どんどん人が移っています。
ただマーケティング・エージェンシーがプロダクトを作る上で避けられない難しい課題があると思います。人に使ってもらうプロダクトは長い目で育ていかないといけない。メンテナンスやアップデートなど長期的なプランニングとそのための予算を組む必要があります。これは打ち上げ花火的なマーケティング・キャンペーンとは真逆のモデルです。
ただ、代理店のクライアントは基本的には企業のマーケティング部門です。予算は四半期、長くても一年ごとに組まれるので、一つのプロジェクトに長期的なプランニングを立てることが難しい。得意先も短期で結果が出て分かりやすい方が上司からの評価の対象になるので自然とそれを求めます。深いところでそういった難しさがある。その辺りはどういう風にお考えですか?
イナモト:社内ではクライアント業務に関わるチームと、社内プロダクトに関わるチーム、そして僕を含めた両方に関わるチームを意識してはっきりと分けています。エージェンシーもプロダクトをやろうと表向きに言っているところはあれど、本気で思っていないところがほとんどではないかと思います。実際はPRとしてだったり動機が純粋でなかったりする。
もうひとつは、Short Attention Span。つくったものを長く育てていこうということに慣れていない。例えば3ヶ月でばっとローンチしてちょっと話題になって、じゃあ次へ。そういう短期サイクルで動いている。長い時間をかけてイテレート、育てていくっていう筋肉が備わっていない。
川島:短距離走型の筋肉ですよね。
イナモト:そう。だから僕の会社ではチームを分けてやるようにしています。長い期間で、2年、3年のスパンで見て動けるように。
川島:プロダクトやサービスの開発はクライアントと一緒に進めることが多いのですか?それとも完全に自社のものを?
イナモト:会社を立ち上げてもうすぐ1年になります。その中で僕ら自身のことで学んだことは、クライアントから頂く課題で例えば「この商品のキャンペーンを考えて欲しい」とか「Webサイトを直して欲しい」とか、そういったものは僕らには合っていないのではないかと。クライアントやブランド自身、解決しないといけない問題が山ほどあるのはわかっている、けれどどこから取り組んでいいかわからない。だからそれを明確にするお手伝いから入る。例えば2020、2030年にどうなってればいいのか、そこから考え始める。でもそれだけだと、空論的になってしまう。未来を考えるのはいいんだけど、やっぱり実行していかないと未来は築けない。じゃあそこに行くためにはこの先の1年、2年はどうすればいいのか?そうやって導いて行く。なので最初から何がアウトプットになるのかは分からずに、むしろそれを一緒に見出して行く、そういう働き方が多いですね。会社を始める前には「ぼやー」と思っていたことが、やっと見えてきた感覚があります。
うちはエージェンシーでもなければコンサルだけでもない。そして自分たちでもインキュベートする。自社投資で始めつつ、先が見えたら外部からの投資を仰いで別会社にするという取り組み方。なので「ビジネス・インベンション・スタジオ (Business Invention Studio) 」という形にしたんです。
後編では、これからのデザイン、AI(人工知能)、そして東京オリンピック・パラリンピックについて伺います。そちらもお楽しみに!