<座談会メンバー>
- 世界をも唸らせたNTTドコモ「3秒クッキング」シリーズなどを手がけた、川地哲史さん(博報堂)
- 『Pokémon Go』からBEAMSまで、幅広い分野のファンを魅了してやまない、本山敬一さん(SIX)
- 日本のお茶の間を席巻した、サントリーC.C.レモンの「松岡修造の元気応援SONG」を手がけた、皆川壮一郎さん(読売広告社)
- 直近の案件だけで合計1億再生以上を叩き出した、アドタイの連載「ALL YOU NEED IS BUZZ」でもお馴染みの、栗林和明さん(TBWA\HAKUHODO)
- Panasonicの「LOVE THERMO」「LOVE DRESS」「LOVE DISH」3部作、大塚製薬の「ポカリガチダンス選手権」などを担当した、眞鍋亮平(電通 鬼ムービーのクリエイティブ・ディレクター)
- クリスマスイブの夜を沸かせた、ドワンゴの「#クリスマスは年賀状書くから忙しい」など、メディアを巻き込むプランニングを得意とする、鹿間天平(電通 鬼ムービーのメディア・プランナー)
- 小林市「ンダモシタン小林」や日清食品「INSTANT BUZZ」など、数々のヒット動画のPRプランニングをした、根本陽平(電通パブリックリレーションズ 鬼ムービーのPRプランナー)
アイデアの発想源は、生活者か、ブランドか
鬼ムービー・根本:「鬼ムービー」のPRプランナー、根本です。僕は、このチームで、言の葉に乗せるための切り口やアイデアをクリエイティブに内包して世に送り出すことがミッションのひとつなのですが、みなさんは、言の葉に乗るアイデアをどうやって生み出しているのですか?
読売広告社・皆川:極力、シンプルであることを心がけています。僕は、もともと営業出身なんです。クリエイティブじゃない期間が長かったせいか、クリエイティブって難しいという印象が今でも残っていて、人に説明できるような、シンプルさを大事にしたいと思っています。
それと、ヒットするアイデアの答えは生活者のほうにある、ということも大切にしています。クライアントが言いたいことと、生活者が受け取りたい情報には基本的には乖離があって、全然違うものです。なので、コンテンツやプロモーションのアイデアを立てたら、ソーシャルメディアをパトロールして、そのアイデアに対してどんなふうに生活者が反応するか、という仮説を検証しますね。かつては、アイデアをつくる側じゃなくて受ける側だったので、その感覚を思い出しながらやっています。
TBWA\HAKUHODO・栗林:僕の場合は、言の葉に乗っているものから“しか”、アイデアは考えていません。ネットで話題になっているものや、トレンド、日常で誰かが言っている文句…、それがなぜ言の葉に乗ったのかを解明して、アイデアのヒントやインサイトを見つけています。
博報堂・川地:僕は漠然とヒットを飛ばしたいと企画をスタートすることはなくて、ブランドにとって、最もいい方法は何かということを考えています。ターゲットを明確にしてからコンセプトを考え、それからそれぞれのメディアに合う方法を考えてますね。
鬼ムービー・根本:栗林さんとは、逆のアプローチですね。ブランドの言いたいことを決めてから、世の中のことを考えるということですか?
博報堂・川地:そうです。ターゲットを明確にすると、おのずと言いたいことが生まれてくる気がしていて。例えば40代の思春期の子を持つ主婦に向けた施策と決めた瞬間に、ブランドの言いたいことが決まってくるというか。それだけで、企画がエッジーになりますよね。
SIX・本山:自分も川地さんと同じで、広告の基本は商品やサービスの持っている可能性を徹底的に掘ることにあると思ってます。だからそのブランドを見つめるというか、勉強するというか…。その商品やサービスが持っているポテンシャルを全部洗いだして、その中で生活者とブランドの“折衷点”を探す。それって、普通といえば、普通のやり方だと思いますけどね。そのブランドと関係ないことでバズっても資産にならないと思っているので、あくまでブランドから逆算してつくることを大切にしています。
TBWA\HAKUHODO・栗林:とすると、生活者のインサイトは、どうやって浮き彫りにするんですか?
SIX・本山:担当するブランドによると思いますが、長く存在しているサービスや、それなりに人気の商品なら、何かしら生活者から愛されているポイントが必ずあります。そこにヒントがあると思う。なぜみんながそれを好きなのか、あるいは、かつて愛された時期があったのに、なぜ今はダメなのかを真剣に考えれば、おのずと答えは見えてくる。そこからアイデアを広げますね。
鬼ムービー・根本:新製品や新サービスのローンチで、歴史や背景がないものだったらどうするんですか?
SIX・本山:どういうふうに生活者の生活に溶け込むのか、それをひたすら想像しますね。人々の生活とブランドの“接地点”がどこにあるかを考え抜いて、その中で一番、生活者にとってエモくて、かつ話題になりそうなものは何か、というふうに考えています。
TBWA\HAKUHODO・栗林:人の生活をシミュレーションした時に、そのイメージを鮮明にする方法ってありますか?
SIX・本山:普段から徹底的に見ておくってことじゃないかな。本棚とかも。
鬼ムービー・根本:本棚?
SIX・本山:細田守監督の映画って、映像の背景に本や本棚が登場するシーンがけっこうあるんだけど、あれって本のタイトルまで細かく書き込んであるんですよね。でも、広告だとそういうのハショるところで、だいたい洋書とかをざっくり並べちゃう(笑)。でも、部屋って人の無意識の集積で、その人自身なので、登場人物が何の本を読んでいるかって大事じゃないですか。そういうところの解像度を上げて、生活者の「人生」を考えられることが大切だと思ってます。それがそのまま表現に反映されるかは別として、かなり緻密に、“ディテール”を考えたりするほうがいいかなって。
鬼ムービー・根本:その“ディテール”が例え一瞬でも、そこに力を注ぐ、みたいなことですかね。
SIX・本山:人が感動するのは“一瞬”ですよ。映画「君の名は。」がヒットしたけど、あれは、RADWINPSの「前前前世」が鳴って、リズムにあわせて信号がチカチカとする、その瞬間に「おぉ!」となる。その一瞬の感動の積み重ねみたいなものが、ブランドをつくると思う。そのためにも、その“一瞬”に手を抜かず、そこに懸けたほうがいいと思ってますね。