企業広報、PR会社、メディアになぜ倫理観が求められるのか? 情報を扱う人の責任を考える

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マスメディアに限らず、企業も新興メディアも、一消費者までもが自由に情報を発信し、影響力を持つ現代。情報を扱う広報担当者は、その責任を自覚し自分なりの行動規範を持つようにしたい。2月1日発売の月刊『広報会議』2017年3月号の巻頭特集「広報パーソンの倫理観を考える」では、事業会社、PR会社、メディアそれぞれの視点から、情報発信者として持つべき知識や心構えについて意見を交わした。
  • 日本マクドナルド コミュニケーション本部 PR部 上席部長 玉川岳郎
  • 井之上パブリックリレーションズ 執行役員 尾上玲円奈
  • 扶桑社 『週刊SPA!』『日刊SPA!』 編集長 金泉俊輔
この記事は、月刊『広報会議』2017年3月号特集記事の抜粋です。全文は本誌で読むことができます。

倫理に反する仕事は頼まれても受けない

玉川岳郎氏(日本マクドナルド コミュニケーション本部PR部 上席部長)
1969年生まれ。見本市主催企業の広報宣伝担当、日本オラクル広報室長、日本アイ・ビー・エム(IBM)広報部長を経て、2016年3月、日本マクドナルドに入社し現職。社外でも広報やソーシャルメディア活用などに関する講演や執筆などで、後進の育成に寄与している。

玉川:コミュニケーションを仕事にする広報パーソンは、「リーガルマインド」と「インテグリティ」を持つべきだと考えています。リーガルマインドは法律知識や法令順守の意識を持つこと。これがないと、何が許され、何が制限されているのかの基準がつくれません。一方のインテグリティとは、人が見ていないところでも正しく行う高潔な姿勢のことです。

今回の議論も、法令順守と倫理観、どちらの問題なのかを分けて考える必要があります。たとえば電車内で座っている時にお年寄りが目の前に立ったとします。自分の席を譲らなくても法令違反にはなりませんが、社会のマナーに照らし合わせると譲った方がいい。これは倫理観が左右するということができます。物事の善しあしを考える時に、これらのものさしとバランス感覚を持つことが大事です。

尾上:PR会社としてクライアントをお手伝いする立場ですが、新規案件のご相談をいただく際、まずはお受けするかどうかの議論から始めます。我々はパブリックリレーションズを通して世の中をより良くすることを社是としていますが、その理念に反する仕事はしないと決めているからです。

創業者の井之上(喬・代表取締役会長)は日頃から、ことあるごとに倫理観について口にします。「石は磨いても丸くしかならないけど、ダイヤモンドの原石は磨けばダイヤモンドになる」といわれるように、倫理観に照らし合わせて問題がある案件はどうしようもありません。

玉川:とても大事なことだと思います。仕事を通して、社会への貢献につながるかどうかに行きつくということですね。

尾上:そうですね。結果として仕事をお断りすることもありますが、話せば理解して歩み寄ってくれるクライアントも多いです。

金泉:現代は消費者や読者に多様化と多層化が起こり、伝えたいことを正しく伝えるのが難しい時代です。企業や個人が何らかの問題を起こしたり、巻き込まれたりした場合に、世の中から批判されたり場合によっては炎上したりといったことが起こります。とはいえ、企業や我々メディアも、自分たちで可能性を狭めているような気がします。世の中の空気に敏感になり過ぎて、多くの自主規制をかけてしまっています。

実際に、世の中の雰囲気からわき上がった論調が正しいかといえば、そうと思えないことも多い。それにもかかわらず、世間の空気を読んで大人しくなりすぎているのではないかなと。もう少し世の中の空気を緩やかにしていきたいですね。

言動や行動の基準を持てば説明できる

玉川:確かに、社会の多様化、多層化が進んでいると思います。その中で、誰かから反対の声が挙がったとしても、基盤がしっかりしていれば、自らの主張や行動について責任を持ってきちんと説明できると信じています。一方で、過剰なご意見に対しては毅然と対応する必要もあるでしょう。そのための基準となるのがリーガルマインドとインテグリティです。

具体的には、憲法が保障する「言論の自由」、報道倫理規定、民法の権利関係、会社法、知的財産、不正競争防止、景品表示の基本的な概念は知っておくべきだと思います。たとえば「なぜステルスマーケティング(ステマ)はいけないのか」について、こうした視点から深く理解しておけば、普段の行動や言動規範の構築につながっていくはずです。

尾上玲円奈(井之上パブリックリレーションズ 執行役員 事業兼クライアントリレーションズ担当)
1980年生まれ。NHK記者を経て、2007年井之上パブリックリレーションズ入社。自社の事業推進のほか、農業から運輸業、製造業や小売業、政党、ITなどのクライアントを担当。2014年4月から早稲田大学の非常勤講師としてパブリックリレーションズを教えている。

尾上:倫理観から逸脱した案件では、短期的に非常に収益を上げることができても、悪評がついてまわるかもしれません。会社の評判をつくるという意味でも、中長期的には経営面でもリスクがあるはずです。仕事を受けた後も、クライアントに対して思い切って意見を申し上げられる土壌をつくることは大切だと考えています。

金泉:『SPA!』の編集方針は、一言でいうと「常識を疑え」ということになります。世論で「おかしい」と思われていることも、問題の内側にいる人はまったく違う捉え方をしている場合が多いからです。編集部としても、ミュージシャンのASKAさんの不起訴や、患者が点滴で相次いで中毒死した大口病院への記者の潜入、新書『日本会議の研究』の出版差し止めと、話題となる事件にかかわりました。これらはいずれも、外部で盛んに言われていることと内部で実際に起きていることとではかなり差があります。人々には知る権利があるため、伝える我々も縮こまりたくないと考えています。

ただ、ひとつの基準として「弱者は守る」という考えは持っています。我々の雑誌の記事は人によっては倫理に反していると思われる方もいるかもしれませんが、人間の本音の部分と「弱者は守る」という立場のバランスは日々考えていますね。

次ページ 「影響力の裏側には相応の責任がある」へ続く

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