※本記事は、『宣伝会議』2017年3月号とアドタイとの共同企画「アドタイコラムニストはこう見る!2017年 広告界動向予測」の一部を掲載したものです。その他の記事は本誌をご覧ください。
徳力基彦(とくりき・もとひこ)氏
アジャイルメディア・ネットワーク 取締役 CMO/ブロガー
NTT等を経て、2006年にア ジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガー の一人として運営に参画。「アンバサダーを重視する アプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの 企業活用についての啓蒙活動を担当。書籍『アンバ サダーマーケティング』においては解説を担当した。
会社のブログ:http://blog.agilemedia.jp/
個人のブログ:http://blog.tokuriki.com/
徳力氏のコラム「アンバサダー視点のススメ」はこちら
2016年の出来事を踏まえて2017年の広告を考える時、最も象徴的なキーワードと言えるのは「消費者の広告への逆襲」になるのではないだろうか。
2016年は、大企業の広告において、Webで展開していた動画をテレビCMとして露出した結果、視聴者の批判が高まってしまい、CM放映中止や謝罪に追い込まれるケースが散見された。
従来のマスマーケティング時代においては、仮にテレビCMの表現に過激な点があり、一部視聴者の批判が高まったとしても放映自体が中止になることは少なかったし、仮に放映を中止したとしても企業側が謝罪のリリースまで行うことは稀だった。消費者の怒りやクレームが社会的な話題になることは難しい時代だったのだ。
それがソーシャルメディア時代になり、消費者がメディア化したことで、消費者の怒りやクレームが可視化されるようになった。少数の消費者のクレームを、メ ディアが容易にニュースとして取り上げ ることができるようになり、炎上騒動が連日のようにメディアを騒がすようになった。
象徴的なのは、2016年夏に発生したPC DEPOT(PCデポ)の騒動だろう。この騒動は一人のTwitterユーザーの投稿が起点となったが、あっという間にネットやマスメディアで話題となり、PCデポの株価は半値以下に下がり、業績にも影響を与えた。PCデポの騒動は、あくまでPCデポの顧客対応を起点としているが、広告にとって難しい時代と言えるのは、同じような騒動がCMのような広告表現を起点として発生し得る時代に突入しているという現実だ。
特にテレビCMのようなマス広告においては、数百万人という大勢の消費者の目に、ある程度強制的に広告メッセージを届けることができる。大多数の人が問題ないと思う広告表現であっても、仮に0.1%が怒りを感じる表現だった場合、100万人に露出すれば1000人、1000万人なら1万人がクレーマーになるリスクがある。
今までの消費者はどんなテレビCMでも、どんな広告表現でも、黙って浴びるままの存在だったかもしれないが、現在は企業の連絡先を調べてクレームのメールや電話をすることも簡単になり、ネット上で怒りの感情を表現することでメディアへの話題の提供源となることも容易になった。消費者は、気に入らない広告に逆襲できる存在になってしまった のだ。
顧客に、企業やブランドに対する良いイメージを持ってもらうために実施しているはずのテレビCMによって、批判 の声が発生するという状況は、企業からすると本末転倒だ。ただ、批判に対応する形でテレビCM放映を中止し謝罪のリリースを行うと、それがさらに炎上の事実を裏付けする形で耳目を集めてしまう結果になる。
企業にとって広告という手法が非常に難しい時代になっているのは間違いない。ただ、逆に言うと、企業に逆襲できるだけの力をつけた消費者を味方にできれば、これほど力強い味方もいない。『君の名は。』や『シン・ゴジラ』の口コミによるヒットが証明しているように、商品やサービスの完成度が高ければ、消費者の口コミが拡散し大ヒットにつながる時代でもある。
消費者を味方にする上で最も大事なことは、企業が伝えたいことから考えるのではなく、顧客の声を聴き、顧客の視点で考えることだ。日清食品は、「おバカ 大学」のテレビCM第1弾に批判が集まり放映中止と謝罪をする結果になったが、批判と応援の双方の声に耳を傾け、第2 弾・第3弾と内容を改善しながら企画を継続し、称賛の声を集めることができている。広告には効果があるからこそ、使 い方が問われる時代になっているとも言 える。2017年はそんな広告の消費者への姿勢が、より一層重要になる年と言えるのではないだろうか。
本記事は、『宣伝会議』2017年3月号とアドタイとの共同企画「アドタイコラムニストはこう見る!2017年 広告界動向予測」の一部を掲載したものです。その他の記事は本誌をご覧ください。