顕在化されていない欲求をどう見つけるのか?
並河:人間の顕在化されていない欲求の事例として、よく「本屋」と「アマゾン」の違いが指摘されます。アマゾンは自分の欲しいものを最適化して、おすすめてくれる一方、本屋ではフッと目に入った、それまで全然関心のなかった本を買ってみたくなる。そういった偶然の出合いを、人工知能やテクノロジーはどう実現していくのでしょうか。
松尾:そこは、まさに人間が担わなければいけない領域だと思っています。人工知能にとって、顕在化されていない欲求を見つけるのはすごく難しい。
顕在化されていないものを見つけるためには、それを見つけるための評価関数自体を人工知能が持っている必要があります。人間は長い進化の中で、非常に複雑な評価関数を持っているのです。
並河:顕在化されていない欲求は、人間が持つ「評価関数」によって現れるということでしょうか?
松尾:そうです。進化の過程で培われた、本能や感情から評価関数は構成されていますから、それをもってすれば顕在化されてない欲求にセンスのいい人であれば気付けるということだと思います。
並河:なるほど。そうすると、その本能や感情が解き明かされれば、人工知能にも多くの人が「いいな」と思う表現をつくることができるかもしれません。
松尾:そうですね。ただ、人工知能が人間のようなコピーを書けるかというと、まだ無理だと思います。レベルは低くてもいいから、数をたくさんつくるとか、早くつくるといった部分は人工知能で自動化されるでしょうね。
そうやって、仕事の一部を人工知能が担うことで、人間がより難しい作業に集中でき、その結果、全体のパフォーマンスが向上するということがまず起きてくると思います。
並河:そういう方向に移っていくのだろうなと、僕も実感しています。人工知能にできることと、人間にできることを理解した上で協業していくということでしょう。