広告料金の基本とはいえ、コミッション制とフィー制の違いを明確に説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。広告主の担当者も、その請求書がコミッションで算定されたものなのかフィーで算定されたものなのか把握しておらず、ただ合計料金を見てなんとなく妥当な感じということで処理しているという声も耳にします。
請求書の中身を知ることは、すなわち仕事の実態を知ること。この二つの請求額の算出法の違いを明確にし、そこから見える課題について言及します。
フィーとコミッションはどう違うの?
広告主から広告会社に支払われる広告の取引金額の中で広告会社の取り分は、コミッション(手数料)制とフィー(作業報酬)制のいずれかで算出されます。フィーとは、専門作業に対する報酬のこと。ディレクション費・コピー費・デザイン費などの制作費のほか、企画費などの作業項目が多くの場合これにあたります。
その金額は、新聞広告15 段あたりコピー料がいくらで、デザイン料がいくら、などと定めたいわば「定額設定」と、案件ごとのワークロードを明確にし、「これだけ責任や経験のある人が、これだけ作業時間をかけているのでいくら」といった「人件費換算」で算出する方法に分かれます。
いずれにしろフィー制は、広告にかかる投資に基づいて請求金額を算出するため、広告会社には予算規模に関係なく最低限確保すべき粗利が保障されるメリットがあります。ただし、あくまでも作業量に応じた算出であるため、予想外に“大きな儲け”につながりにくい方法であるとも言えます。
コミッション制とは、実費(媒体費や制作費など)に対して10%、15%といった料率を「管理費」や「手数料」という名目で上乗せする制度のことです。よって、予算規模が大きければ大きいほど広告会社の粗利も拡大します。たとえば、1 億円のメディア予算に対する手数料が10% の場合、広告会社の粗利は1000 万円ですが、10 億円の予算では1 億円に跳ね上がります。予算規模が異なる理由の多くは、扱う媒体が異なるからです。
媒体費が高額な、テレビなどのメディアを使えば予算は高額になるでしょうし、ネットを主とするプロモーションを展開すれば低予算に抑えられます。ただし、予算規模が10 倍大きいからといって広告制作の労力やコストも10 倍に増えることはまずありません。ネット動画をつくるのも、テレビCM をつくるのも労力自体に大差はありません。また、新たに担当者を増員することも、まずありません。
そのためフィー制を採用するよりも、コミッション制を採用して手数料で粗利を確保する方が広告会社の粗利がはるかに大きくなります。しかし一方で、予算が極めて少ない場合は、むしろフィー制の方が収益になるということも言えます。
実費をオープンにするべきかクローズドにするべきか
コミッション制には、広告主に実費明細をその証拠とともに開示して、そこに所定の手数料を上乗せする「オープン・ビリング(請求)」と、明細の根拠を開示しないまま手数料を上乗せして請求する「クローズド」に分かれます。
コスト管理に厳しい外資系広告主は「オープン・ビリング」が通常で明細書に証拠を添付して請求するスタイルを採用しています。対して日本の広告ビジネスでは、明細は記入するものの証拠を開示することなく請求する「クローズド」の実態が通常で、請求書1 枚で済ませるケースが多いと言えます。オープンとクローズドと、どちらがおトクかと議論するなら、「広告主にとっても広告会社にとっても一長一短である」というのが私の見解です。
広告会社は、広告主に実費証拠を開示せずオフレコにした方が、得な面があるとの見方ができます。最終的に内訳はある程度内部調整が可能になるからです。たとえばクローズドで言えば、メディア料金は一般的に高額となりますが、広告会社がメディア会社に実際いくら支払ったのかが開示されないままだと、いったい広告会社にはどれだけの収益があるかが分かりにくくなります。その点、オープン・ビリングは明細の根拠が丸裸になるため、請求額の明朗性や信頼性が高まります。
これは広告主側から見れば、クローズドであれば、「テレビCM をお願いするのだから、セールスプロモーションのツール制作も追加料金なしの“込み込み”でお願いね」などと無理が言えてしまう。あるいは明細の根拠が明確でない分、「もうちょっと、安くならない?」といった値引き攻防戦でも強気で攻めることができてしまいます。
一方、オープン・ビリングだった場合、実費の根拠と手数料を明確にするので、広告会社は「10%が我々の取り分でそれ以外はコストなのでこれ以上値下げは無理」と突き返すことができます。あるいは、「今後は明細の根拠をすべてオープンにしなくてはならないなら、これまで無償で提供していたサービスを、実費で請求させてもらいます」などと新たに実費請求する可能性もでてくるわけです。
さらに、オープン・ビリングでは、明細を一から十まで開示することなので、エビデンスの量も膨大です。撮影ひとつとっても、細かな項目ごとの数字を一つひとつ指差し確認する必要があり、またCM であればオンエアした放送局ごとのすべての数字などをチェックしなければなりません。広告主の負担は大幅に増えます。以上を踏まえると、オープン・ビリングもクローズドも、善し悪しがあるということです。
広告主も広告会社もWin-Win になれる落としどころを
これらのジレンマは、日本で広告ビジネスが生まれた時の商習慣によるところが大きい。広告会社はもともと新聞社の広告スペースを買い取り、新聞社になり代わって広告を埋めていくのが仕事でした。広告主を集めてきては、「このスペース使ってくれたら、クリエイティブはサービスします」という方法をとっていたため、クリエイティブは営業ツールでしかなかったのです。曖昧な明細の根拠の所以はここにあります。広告代理店の「代理」という言葉は、媒体社を代理するという意味で、決して広告主を代理しているわけではなかったのです。
そんな商習慣を踏まえると、これまで解説してきた報酬制度は、広告主と広告会社の永遠の課題のようにも見えますが、時代の変化とともに、双方にとってフェアである落としどころを見つけていくべきだと思います。古い商習慣を捨て、双方がビジネスとして収益を上げ、互いの企業が発展することを前提に報酬制度そのものや運営の仕方を見直すときが来ているということです。
広告会社は広告主に対して、売り上げをあげるためにちゃんと貢献しなくてはならないし、広告主も安く値切って広告会社を絞るのではなく、Win-Winなパートナーシップをしっかりと築くべきタイミングなのかもしれません。
そのためにも、まずは広告主が請求書の中身をしっかり把握すべきなのです。明細を知ることは、仕事を知ることにつながりますし、不正の防止にもつながります。となると、やはりオープン・ビリングの方式をとらずとも、まず「しっかり明細を見る」ことから両社の信用づくりを始めるべき、との言及に落ち着くのかもしれません。
宮澤節夫(みやざわ・せつお)
宮澤節夫事務所
コミュニケーション・コンサルタント
国内の広告会社でクリエイティブとマーケティング双方のディレクター、クリエイティブ局長、外資系広告会社では戦略プランニングディレクター、ストラテジックプランニングオフィサー、代表取締役社長などを歴任。国内企業と外資系企業を経験し、そのほとんどでクリエイティブとマーケティングから経営まで自ら携わるとともに、マスメディア広告からCRM までを統合的に実践。現在は、クライアント企業側に立ち、企業宣伝部と広告会社の間に入り、広告宣伝を効果的かつ効率化に導くコンサルティングを実施している。
適正な広告取引のために、1974年に創刊されて今号で25冊目。独自調査に基づいた広告制作の最新料金基準のほか、全国各地域の広告会社・制作会社の現行の制作料金表や、広告関連諸団体の標準見積もり様式を収録。発注から納品までの流れや、作業や費目ごとの詳しい解説など、広告制作料金に関するすべてがこの一冊でわかります。
『広告制作料金基準表 アド・メニュー’22-’23』
宣伝会議 編
B5版、283ページ ISBN:978-4883355280
定価:本体9500円+税
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目次
■第1章 巻頭企画 広告発注における日本と海外の違い
- ・役割・作業が明確 広告発注 海外の進め方
- ・CASE1 日本の常識は通用しない?広告発注における日本と米国の違いとは
- ・CASE2 発注責任者に求められるものとは何か?
- 失敗しない発注先の探し方と決め方
■第2章 メディア別 広告制作における作業と費目
- ・グラフィック
- ・CM・動画
- ・WEB
- ・DOOH
- ・イベント
- ・PR
■第3章 その他の制作関連の各種料金表
■第4章 広告関連団体による資料
- 編集制作料金基準表(一般社団法人日本編集制作協会)
- 出演と契約に関するガイドライン(一般社団法人モデルエージェンシー協会)
- プロジェクションマッピング制作費見積書式(一般社団法人プロジェクションマッピング協会)
- 弁理士の報酬について(日本弁理士会)
付録 制作物別 制作料金の参考目安