米国で再び「1984年」が注目される理由
米国ではトランプ政権が発足して、英国の作家ジョージ・オーウェル氏の古典的ディストピア小説『1984年』が注目されるようになったそうです。それは、いま直面している現実を疑いたくなった人々が、これからますます起こりそうな悪夢に対する準備をしているためかもしれません。
Amazon プライム・ビデオではフィリップ・K・ディック原作のディストピアSF作品『高い城の男』が映像化されています。『高い城の男』はナチス・ドイツと大日本帝国によって支配された米国という、まさにオルタネイティブな歴史を描いた世界が舞台です。ニューヨークの街にハーケンクロイツの米国国旗が大きく掲げられた姿は、1984年のビッグブラザーのように「世界の終わり」といった風景にも見えます。
このような世界で生きるためのマーケティングとは、いったいどのようなものでしょうか。
すでにApple、Starbucks、Facebook、Google、Uber、NIKEのような米企業はトランプ大統領が出した国内への移民の制限について企業としての立場を表明しています。このような問題に関して企業がその立場をクリアにすることは、政治的な関わりという次元を超えて、その商品やサービスを買ったり、使ったりする人に大きく影響を与えるでしょう。
そして消費者は自分が使用しているブランドの政治倫理的な価値観によって、再度世界を見直すことになります。世界一高価なコマーシャルタイムであるスーパーボウルの広告で、そのコストをかけたとしても自らの価値観を企業が表明しているのは、それが重要であると認識しているからです。若者向けに垢抜けた広告が得意なアンバイザーブッシュが、自らの移民としての起源を暗いシリアスなトーンで語るのは、まるで「高い城の男」で描かれているオルタナティブな歴史のアンチテーゼであるかのようです。
意見を述べた企業のひとつであるAppleは、33年前のスーパーボウルの広告で、テクノロジーが迎えた「1984年」をテーマにした伝説的なコマーシャルをマーケティングメッセージのひとつとして流しました。そのときはAppleの行動によって「1984年はかつての1984年ではなくなる」と語ったことが、いまこの2017年に「かつての1984年」が現実になっているのです。