「エンゲージメント」が欠落させるものとは
上記を見れば、筆者がエンゲージメントを「(ユーザーからの)関係性を示す指標」と概観したことを肯うことができるだろう。ある記事に対して「いいね!」する、「シェア」をする、そして「コメント」をすることは関心度や熱意を何らか示すはずだ。
多くのメディアが読者との関係を誇示するためにも、Facebook上でのエンゲージメント率を高めようとするのはムリのないところだ。
問題はその先にある。高いエンゲージメントは読者にとっても重要な指標であり、エンゲージメントを構成する要素には「信頼感」も含まれると想定できるが、その逆のケースも生じている。昨年の大統領選をめぐる「フェイクニュース問題」ではそのような事象が溢れかえったのだ。
米国「BuzzFeed News」が調査した結果では、確固たる商業メディアのエンゲージメントとフェイクニュースサイトのそれが逆転を示したという。つまり、フェイクニュースのほうが、読者の高いエンゲージメントを獲得するという現象が顕在化したのだ。
大統領選の最後の3カ月間、Facebook上の選挙記事では、捏造ニュースのほうが、主要メディアのニュースよりも、高いエンゲージメントを獲得していたことが判明している。
捏造記事サイトや特定政党に肩入れするブログが流した上位20記事が集めたエンゲージメントは871万だった。
一方、主要メディア(ニューヨークタイムズやワシントンポストなど19サイト)の上位20記事は736万にとどまった。
出典:BuzzFeed News「偽ニュースが民主主義を壊す Facebookが助長したその実態とは?」
エンゲージメントは万能ではない。
とくにそれが重要な事実や、政治的な見解を伝えるような「信頼性」「信ぴょう性」をめぐる場合においては。
古代ローマの哲人カエサル(シーザー)が述べた言葉、「人は喜んで自己の望むものを信じるものだ」は、現代もなお真を伝えているといえる。
2016年、大統領選をめぐりフェイクニュースが大きく台頭した。しかし同時に、にせ情報を排除するための意思や取り組みもまた生み出したといえる。それはメディアをめぐる価値観を改めて問うものでもあった。
メディアは「2016年の大転換」をとらえ返し、その価値を深化させるべき入り口に立ったのだといえる。
【参照資料】
メディアはどうすれば「PV」や「UU」といった「規模的」指標から脱することができるのか
Define the Jargon:Audience Engagement
偽ニュースが民主主義を壊す Facebookが助長したその実態とは?