審査では何が議論され、何が評価されるのか【アジア太平洋エフィー賞レポート】

エフィー賞についての簡単なご紹介は前回書きましたので、今日は審査の実際の様子について、現場からその様子をお伝えしたいと思います。

今回、審査会場となっているのは、シンガポールのブルームバーグのオフィスです。この4年間、アジア太平洋エフィー賞(APAC Effie Awards)が始まったときから、審査会場の提供などのサポートをしてくれています。

ということで、昨年審査した時もこちらの会場でしたが、ドリンク、コーヒーやスナックなどが幅広い品ぞろえでいつでも食べ放題になっていて、とっても素敵なオフィスです。オフィス内の写真撮影はコンプライアンス上制限されているため、その様子を紹介できないのは残念ですが。

さて、その会場に着くと、2次審査員が約40人集合していまして、APAC EFFIE事務局長のChua Bee Hongさん、そして審査委員長のAnthony Wongさんからの説明があり、その後、7人か8人くらいのグループに分かれて、審査が始まります。

各審査グループにHead of Juryと呼ばれる審査リーダーがいて、その人のモデレーションの下で、審査が進みます。

どんな人たちが審査員なのか?

僕が入っていたチームの審査リーダーは、チューインガムを世界的に販売しているWrigley社でAsia Pacific MarketingのVice Presidentを務めているNicole McMillanさんでした。

まずこのように、広告会社だけじゃなくて、クライアント側の人や、メディア側の人などいろんな審査員がいます。審査リーダーのNicoleさんのようにクライアント側からは、Treasury Wine Estatesの東南アジアからアフリカまでをカバーしているマーケティング・ディレクター(イギリス人)、キアモーターズ(起亜自動車)のブランド戦略ディレクター(韓国人)、元リーバイス中華圏のヘッド・オブ・マーケティング(香港人)など、いろんな業界のマーケティングプロフェッショナルが集まっていました。

また、フィリピンのメディアグループの会長がいたり、ハバス・アジアパシフィックのCEO(インド人)のようなメディアエージェンシーの方がいたり、ベトナムのエデルマンの代表のようなPRエージェンシーの方などがいました。

広告エージェンシーからの審査員も多様で、ベトナムのピュブリシスワンのCEO(ポーランド人)やオグルヴィ・アジアパシフィックの戦略のトップ(イギリス人)といったアカウント出身者やプランニング出身者(私もここに入ります)もいれば、チェイル上海のECD(シンガポール人)や、JWT東南アジアのグローバルECD(シンガポール人)などのクリエイティブ出身者も審査グループの中にいて、なかなか多彩な審査員の顔ぶれでした。

こうやって審査員のメンバーを見ると、まず、いろいろな企業からいろいろな人種が集まってきていることが感じられると思いますが、さらにその中でも審査員たちの会社におけるポジションが非常に高いこともわかると思います。

すなわちアジアパシフィックにおけるマーケティングに深く関与している責任者たちが一堂に集まって議論するという場になっています。

どんなことが議論されているのか?

審査の現場でこの数日どんな話をしていたかは、エントリーされた各社との規約上のコンプライアンスから具体的に書くことはできないのですが、(審査結果も授賞式が来月にあるためそこまでは紹介できない)、せっかくですのでその議論の雰囲気を一部お伝えしたいと思います。

まず、1次審査を通過してきたケースを、1日に30くらいずつ、前述のグループで一つずつ審査していきます。最初に審査員に各自配布されたiPadに入っているエントリーフォームを読みます。一通り読み終わった後に、エントリービデオを見て、その後、ディスカッションをしたうえで、各自点数を入れるという流れになります。

点数を入れる項目は、前回も書きましたが、「戦略的挑戦&目標設定」、「アイディア」、「アイディアの実行」、そして「効果」の4項目になっていて、エフィー賞の性格上、効果に対してのウェイトがやや高くなっています。

評価されるポイントはどこなのか?

ほとんどのディスカッションが、この4つのポイントに従って議論をされていたのですが、この4つのうち、どれか一つでも弱いと良い評価がされません。例を挙げると、たとえ「効果」が良くても、それがキャンペーンの「アイディア」や「アイディアの実行」のもたらしたものなのか?など、この4つの評価基準がきれいにつながっていないと(あるいはそれが感じられないと)評価がされていませんでした。

要するに、卓越された戦略やアイディアがあってそれが素晴らしいマーケティング施策によってビジネス成果が出たことを証明できないといけないということです。

結構多かったのが、「ビジネスの成果はいいけれど、それがこのキャンペーンのおかげなのかわからないよね」という議論でした。これはエフィー賞で毎年起きる議論ですが、やはり優秀なケースはそのあたりがしっかりと語られています。

ただ単に効果があるものをエントリーしたらいいというわけではないのです。エフィー賞のスローガンが、「Awarding Ideas that Work.(効果のあるアイディアを賞賛する)」というだけあって、アイディアも非常に重視されていました。

また、高く評価されるケースは、そもそもの「戦略的挑戦&目標設定」が明確でシンプルに規定されていました。たくさんの目標設定を書いているケースもあって、そうなるとどこに優先順位を置いていたのかが不明で、その後の成果に対する評価が難しくなるケースが見られました。エントリーされる際には、そのあたりの書き方を明確にすることをお勧めします。

もっとも重要な「効果」に関しても、単に売れましたというよりも、前年比と比べてどうなのか、市場全体は伸びているのか、競合は同時期にどうだったのかなど、「市場全体のコンテクストを知りたい」という審査員が結構いました。

このあたりの書き方は工夫する必要があり、ROIやROMIなどを書くことで工夫しているケースも多く見られました。これからは、このエフィー賞に限らず、マーケティング投資による効果のおかげでどのくらいの追加利益が得られたのか、という観点が大事になってくるとひしひしと感じました。

【参考】私が昨年審査した“Land Rover”のケース(ゴールド受賞)が参考ケースとして紹介されています。エントリーフォーム(一部抜粋のPDF)はこちら
 
ケースのビデオ

 

多様な立場からの審査への貢献

もう少し一般的な審査の話をします。結構多かったのが、クライアントの人は「すごい!」と思うことでも、クリエイティブ出身の人は「これはクリエイティブ的にはよくある手法ですよ」と意見をすることです。これは違う立場の審査員がいるからこそ、審査の場に価値を出せるということです。

また、インドのケースでは、インド人の審査員が、国内の社会状況や最近の消費者の心理動向などを紹介したり、中国のクライアント側の審査員が自分の経験に基づいて中国のソーシャルにおける成功と言えるページビューやシェアの基準を紹介したり、違う市場や領域で活躍しているプロだからこそ、審査への貢献ができていることが一番の魅力的なポイントでした。

アジア太平洋の各国で活躍するクライアント、メディア、デジタル、クリエイティブ、アカウント、プランニングのプロがそろっていて、まさにリアルな広告コミュニケーションのビジネスの現場が再現されているところにこのエフィー賞審査の興味深いところがあると感じています。

私自身も日本でマーケティングやブランド戦略をクライアント企業の方々に提案する立場から、審査の場には日本の消費者や市場の状況をシェアすることで貢献しようと心がけていましたが、日本からの二次審査の審査員は私ともう一人、広告会社からの2名だけ。エントリーされているケースも少ないように感じました。次号の現地レポート(最終回)では、そのあたりのこと、エフィー賞の審査の現場で感じた日本の課題について書いてみます。

松浦 良高(まつうら・よしたか)
マッキャンエリクソン プランニング本部長 エグゼクティブプランニングディレクター

博報堂、上海博報堂、TBWA\HAKUHODOを経て、2014年12月より現職。アジア市場でのブランド業務や、7年間の中国駐在での広告業務経験、グローバルチームと連携したブランディング業務など、グローバル関連のブランド/マーケティング戦略構築業務に強い。カンヌ広告祭のセミナーは04年から参画し、グローバルの広告業界の動向の分析をしており、内外での講演も多数こなす。

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