組織をつくる3つのプロセス
フラクタが手がける、ブランディングのための組織づくりは、「テスト」「ワークショップ」「カウンセリング」という大きく3つのプロセスに分けられる。
「テスト」では、自社ブランドにつ いて、またブランディングについて、現状どんなことを、どの程度理解しているのかを調べる。経営者やブランディング関連部門に限らず、すべての現場社員が対象だ。これによって、これから理解すべきことは何なのかが明確になる。
そして、不足している要素を重点的に強化することで、企業のブランディング力は飛躍的に伸びるという。「弱い部分を強化し引き上げることで、ブランディングの総合力を高めることができます」と河野氏。
つまり、ブランディングを成功させる上では、ある種の“ゼネラリスト”を育てる必要がある。プロジェクトマネジメント、アートディレクション、エンジニアリング、マーケティングなど、特定のスキルを研ぎ澄ますのではなく、「プロジェクトマネジメントがわかるアートディレクター」のように、一人ひとりが複数の要素をバランス良く持ち合わせることが、ブランディングを進めていく上では有効なのだという。
テストの次は「ワークショップ」。その企業のブランドに関する具体的な課題を提示して、アウトプットをつくり上げるところまでを実践する。ここで見ているのは「参加者がどこまでついてこられるか」だと、ブランディング・ディレクターの松岡芳美氏は話す。
「社員の皆さんの、ブランディングにおける適性を判断できます。例えば商品開発のワークショップを行ったとする。『どんなターゲットに対して、どんなものを、どんな形で届けるか』を考えるのは、かなりのパワーを要する作業です。コンセプトを曲げず、折に触れて立ち返りながらゴールを目指す……途中で挫折してしまう人も少なくありません」。
そして、ワークショップでの観察結果をベースに、フラクタの担当者との一対一の「カウンセリング」を行う。
ここでは、ブランディングに関わる業務を効率化するツールやサービスを提示しながら、それを使うことで何が可能になるかを、社員自身に考えてもらうのだという。
「カウンセリングを通じて、ブランディングに対して『できそうだ』という感覚を持ってもらうとともに、できるだけ効率良く業務を進めていくよう意識づけることも大切です。それによって生まれた時間を、いまの自分に不足している知識・スキルを身につけることに充てられるようにすることで、ブランディングを推し進めるための組織基盤がますます強化されていきます」(松岡氏)。
こうして、ブランディングに取り組むためのベースができたメンバーを、「組織」「チーム」として動かしていくこと–それこそが、フラクタの「組織づくり」の肝だ。
チームを形づくるために最も重要なのは、「ユーザーエクスペリエンス(UX)」を合言葉に掲げることだと河野氏は話す。
「ブランディングとは『顧客との長期的な関係の構築』ですから、『UXの改 善』こそが目的となるはず。この目的をチーム全体で共有することで、その達成に向けて、各メンバーが自分にできることは何かという議論が自然と生まれます。スポーツで言う、ルールの設定とメンバーの配置のようなものです。必要に応じてポジションを入れ替えたり、欠けているポジションを全員で補うこともあるでしょう。もちろん、不足しているポジションを社外から採用するのも、選択肢の一つです」。
チームの最小単位は3人で、基本構成は「ディレクター」の下に「デザイン担当」と「テクノロジー担当」、あるいは「オンライン担当」と「オフライン担当」のように、2人の担当がつく形だ(図1)。
チームの設計は、そのブランドの状況や目指す方向性によって柔軟に変えるが、河野氏が理想とするのは「オムニチャネル化した組織」だという。メディアやチャネルに制限されることなく、ブランドにとって最適なアクションをとることができることが、その理由だ。
また、既存の社内体制の枠組みから独立した組織とすることもポイントだと話す。「社会全体の動きや、人々の価値観の移り変わりをつぶさに観察し、次にすべきことを見つけたらすぐに動く。スピード感と自由度がブランディングの生命線です」。
一方で松岡氏は、理想のチームの特徴として「メンバーが感覚的に『普通』であること」を挙げた。「お客さまの感覚にならなければ、買おうとは 思っていただけませんから。ブランドの担い手として情熱を持ちながらも、客観的・俯瞰的に見る。そんなチームがブランディングを成功させています」。
それを踏まえれば、理想のブランディングチームはどんな企業の中にもつくることができると言える。
自社で組織体制を整え、ブランディングに本格的に取り組むことを決めたら、まずは何から手をつければいいのか。河野氏は「社員の声を聞くこと」だと答える。
「社員の皆さんに、ブランディングに興味があるかと尋ねてみる。必要な専門知識やスキルは後からでも身につけることができます。まずは何より気持ちが大切です」。
ブランドへの思いを起点に、組織を整え、ブランディングを実行する。その第一歩を、ぜひ多くの企業に踏み出して欲しいと、河野氏は力を込めた。
編集協力:フラクタ