『100万社のマーケティング』は、「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介する専門誌です。記事の一部は「アドタイ」でも紹介します。第10号(2017年2月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。
注目企業の未来を形づくる構想を言葉やビジュアルで表現し、実現に向けて力を尽くす。そんなクリエイターとパートナーシップを結んで大きな変革に挑戦し、着実に成功を積み重ねている経営者がいます。戦略だけでは、人は動かない。心を揺さぶる、クリエイティブの力が必要です。経営者×クリエイターの二人三脚で他にない価値を生み出そうとしている事例を紹介します。
小松原一身 Kazumi Komatsubara
ボストンクラブ 代表取締役
1958年生まれ(福井県鯖江市出身)。1984年に福井県鯖江市に眼鏡フレーム企画デザイン会社「ボストンクラブ」創業。2014年経済産業省による「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に選定される。2004年にオリジナルブランド「ジャポニスム」を立ち上げ、国内外において高い評価を得る。福井県眼鏡協会副会長、また、めがね眼連企業の若手経営者でつくるSBW(サバエ・ブランド・ワーキンググループ)代表として、鯖江の高度な眼鏡づくりの技術と熟練職人が仕上げる精巧な眼鏡を、「サバエ眼鏡」とブランド化を目指し、日本のみならず世界へ広げるため尽力している。
服部滋樹 Shigeki Hattori
graf 代表取締役社長
1970年生まれ、大阪府出身。クリエイティブデ ィレクター、デザイナー。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、1998年にインテリアショップで出会った友人たちとgrafを立ち上げる。建築、インテリアなどに関わるデザインや、ブランディングディレクションなどを手がけ、近年では地域再生などの社会活動にもその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。
—お二人が出会ったきっかけは?
服部:鯖江市の職員や福井県眼鏡協会の方とともに、小松原さんと初めて顔を合わせたのが約4年前。眼鏡のブランディングというよりは、「地域繁栄の構想計画」のようなお話でお会いしたと記憶しています。
鯖江市は漆・眼鏡・ハイテク繊維の3本柱が中心の土地柄です。例えば越前漆器は、日本最古の漆器の産地でありながら、現代はプラスチックに漆を塗る環境対応型の商品を開発。110年の歴史をもつ眼鏡枠(フレーム)づくりは、軽くて丈夫なチタン合金などの新素材を開発して品質重視に取り組み、現在は国内シェア90%超(世界約20%)を誇る世界の眼鏡産地に発展。またハイテク繊維は、スポーツ関連の合成繊維などで高度な技術で新世代の繊維を生み出し、医療や環境資材の分野に挑戦している。鯖江は、時代に合ったものづくりをどんどん進化させていく風土が備わっています。
小松原:鯖江の眼鏡は、80年代初頭にはライセンスビジネスの全盛期で、何もしなくても海外からの受注で潤っている時代もあったのですが、バブル崩壊後に安価な海外製に押されて、出荷数はピーク時の半分になっていた。
それなら「眼鏡といえば鯖江」と鯖江ブランドの眼鏡を世界中に浸透させよう!そのために何ができるかと、行政と地元企業の経営者らが立ち上がって、2012年にブランディングのアクションプランを策定しました。
全国のクリエイターを鯖江に呼び寄せ、地域ブランディングなどのレクチャー等も行っており、その中の一人に服部さんがいらっしゃいました。服部さんが率いる「graf」は、プロダクトデザインだけでなく、空間、食、地域密着のアートワークに至るまで非常にユニークなものづくりをしているクリエイター集団。過去に福井の「金津創造の森」で行われた「graf展」を見て、関心を持ちました。
服部:鯖江市長と初めてお話した時に、国内の90%以上の眼鏡を地元でつくっているのに、市民はそれを認知していないのではと危惧されていました。子どもたちが鯖江の眼鏡をもっと掛けることができれば、地元を愛するシビックプライドが育つのではないかと思い、「マイ・ファースト・めがね」運動という企画をつくりました。
鯖江の子どもの視力に問題があれば、鯖江ブランドの眼鏡をプレゼントする、もしくは割引するという運動で、市長をはじめ皆さんが賛同してくださりました。
小松原:鯖江に生まれた子どもたちの特権ですよね。
服部:鯖江の人は「何か面白いことに挑戦することが未来につながるんだ」ということをよく理解されている地域だなと感心します。それは、鯖江の人は眼鏡産業を通して県外・国外に出ていく機会が多いからじゃないかと。小松原さんをはじめ、いろんな場所を見て自分たちの立ち位置を考えられる、良い大人たちが鯖江には多いです。
続きは本誌をご覧ください。
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