シンガタ 佐々木宏さん、女優 樹木希林さんが特別対談「世の中発の仕事をつくっていく」【後編】

【前回】「シンガタ佐々木宏さんと樹木希林さんがスペシャル対談【レポート前編】」はこちら

今回の電通デザイントークは、日本を代表するクリエーティブディレクターのシンガタ佐々木宏さんが登場します。佐々木さんは広告クリエーティブの第一線で素晴らしい広告を生み出し続けています。そんな佐々木さんと、特別ゲストである女優の樹木希林さんが、これまでの仕事を振り返りながら広告をテーマに語り合うセッションの後編です。前編はこちら

世の中を面白くするには「幅」を持つことが大切

佐々木:「コピー年鑑2016」の企画で希林さんにインタビューさせてもらったときに、「“偽”という字は、人の為と書く」ということをおっしゃっていました。「偽」という漢字の解釈が「人の為」になるとは夢にも思わなかったので、非常にショックを受けました。

樹木:人間って、みんな裏表があって、全てが本物ではないの。もし全てが本物で正義ばっかりだったら、息が詰まってつまらないし、寂しいものになるんじゃないかしら。

そして、電通という会社は、作り手と一般の人をつないで、世の中を面白くしていく。非常にいい職業だと思っています。

佐々木宏さん

佐々木:ありがとうございます。今日は希林さんがいらっしゃる前に、「かえって良かった」というテーマで話していたんです。自分の不幸話とか、ついていなかったことは、今になってみると全部良かったと思えるという話です。

樹木希林さん

樹木:でもそれはね、佐々木さんの能力なんですよ。いろんな嫌なことが、全部「良かった」になるわけがないんです。「良かった」にしていった、佐々木さんの受け取り方ですよ。

昔、箭内道彦さんからの依頼でリクルート「ゼクシィ」のCMで、内田裕也さんと私の夫婦で出演しましょうということになって。結婚の雑誌だから、離れた夫婦は良くないんじゃないかと、みんなは反対するけど出ることにしたんです。

そのオンエアがちょうど終わった日でしたね。内田さんが逮捕されてしまいましてね。ああ、悪いことしたな。クライアントに本当に迷惑をかけたな、と思っておりましたら、クライアントも太っ腹で、オンエアが終わっていたのでそれでいいことにしてくれたんです。

その後に、その第2弾を作ると言われて、どうしましょうかと。同じシチュエーションで、夫の位置には誰もいない。私が一人で座っていて、山頭火の句をアレンジした「やっぱり一人がよろしい雑草。やっぱり一人じゃさみしい雑草」とつぶやこうということになりました。

夫が逮捕されたことは世間にバレているわけですけれど、それを隠してきれいなところだけを見せるのではなくて、全部ひっくるめて、ああいうふうに作っていけたのが、箭内さんの力とそれをOKしたクライアントの包容力。「ああ、えらいことになっちゃった」と思うと、もう果てしなく頭を抱えちゃうんです。そういうのも、佐々木さんがおっしゃる、「かえって良かった」ということかもしれません。

人間の根本のところに遊びも含めた「幅」がある生活をしていると、そういう時にひょいっと力が出るんじゃないかと思います。皆さんの力で「面白かったね」「良かったね」「記憶に残るね」というものに関わることができるのは、なかなかうれしいことなんです。めったにないことですからね。

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