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世の中を面白くするには「幅」を持つことが大切
佐々木:「コピー年鑑2016」の企画で希林さんにインタビューさせてもらったときに、「“偽”という字は、人の為と書く」ということをおっしゃっていました。「偽」という漢字の解釈が「人の為」になるとは夢にも思わなかったので、非常にショックを受けました。
樹木:人間って、みんな裏表があって、全てが本物ではないの。もし全てが本物で正義ばっかりだったら、息が詰まってつまらないし、寂しいものになるんじゃないかしら。
そして、電通という会社は、作り手と一般の人をつないで、世の中を面白くしていく。非常にいい職業だと思っています。
佐々木:ありがとうございます。今日は希林さんがいらっしゃる前に、「かえって良かった」というテーマで話していたんです。自分の不幸話とか、ついていなかったことは、今になってみると全部良かったと思えるという話です。
樹木:でもそれはね、佐々木さんの能力なんですよ。いろんな嫌なことが、全部「良かった」になるわけがないんです。「良かった」にしていった、佐々木さんの受け取り方ですよ。
昔、箭内道彦さんからの依頼でリクルート「ゼクシィ」のCMで、内田裕也さんと私の夫婦で出演しましょうということになって。結婚の雑誌だから、離れた夫婦は良くないんじゃないかと、みんなは反対するけど出ることにしたんです。
そのオンエアがちょうど終わった日でしたね。内田さんが逮捕されてしまいましてね。ああ、悪いことしたな。クライアントに本当に迷惑をかけたな、と思っておりましたら、クライアントも太っ腹で、オンエアが終わっていたのでそれでいいことにしてくれたんです。
その後に、その第2弾を作ると言われて、どうしましょうかと。同じシチュエーションで、夫の位置には誰もいない。私が一人で座っていて、山頭火の句をアレンジした「やっぱり一人がよろしい雑草。やっぱり一人じゃさみしい雑草」とつぶやこうということになりました。
夫が逮捕されたことは世間にバレているわけですけれど、それを隠してきれいなところだけを見せるのではなくて、全部ひっくるめて、ああいうふうに作っていけたのが、箭内さんの力とそれをOKしたクライアントの包容力。「ああ、えらいことになっちゃった」と思うと、もう果てしなく頭を抱えちゃうんです。そういうのも、佐々木さんがおっしゃる、「かえって良かった」ということかもしれません。
人間の根本のところに遊びも含めた「幅」がある生活をしていると、そういう時にひょいっと力が出るんじゃないかと思います。皆さんの力で「面白かったね」「良かったね」「記憶に残るね」というものに関わることができるのは、なかなかうれしいことなんです。めったにないことですからね。